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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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空と大地を穿つ釘

 夜空を一筋の流星が縦に裂き、山の向こうに落ちていった。

「きれー……」
 それを見上げた少女は感嘆の溜め息を吐いてしばし浸ったのち、きゅ、とくちびるを引き結んでその遠くの山並みを見つめた。

 獲物を狙う狩人の瞳で。


「おっしゃー捕まえたオレのモンじゃあー!」
 森の影に囲まれた深い夜闇の直中に、蛮声の喝采が響き渡る。
 高い少年の声。合唱団のソプラノでも務まりそうな声に違わぬ柔らかい金髪と幼い顔立ちを欲望に歪ませて少年は今、森の中に穿たれた淡い輝きを放つ巨大なクレーターの奥底で地面に突き刺さった剣の柄を両手で掴んで哄笑を上げていた。
「うはははは!オレってばすっっげーラッキーじゃね!? 」
 その姿だけを見れば、さながら伝説の勇者の剣を引き抜かんとする少年剣士にも見えなくもないが、目をぎらぎらさせ口の端を釣り上げて笑う様はむしろ財宝に目を眩ませた盗賊である。
 端正な容姿を惜しむことなく決壊させて少年は肉に喰らいつく猛獣のように剣にむしゃぶりついていた。
 光を放っているのは、剣。
 鉱石のような刀身から放たれる青い輝きに下から照らし上げられ少年の笑みに狂気の色を付与していた。
「いやあ今日はホンッットにツイてるわ! 昼間はキレーなねーちゃんとお近付きになれるわ一緒にメシ食えるわ! そんで「飛剣」まで見つけて手に入れられるなんてチョーラッキー!」
 げらげらと笑いながら、少年は切っ先を埋め込んだ剣の柄を右に、左にと捻らせる。
 大地に深く突き刺さってはいるものの、肩幅よりも大きく左右に捻っているにも関わらずその剣は未だ抜ける様子を見せない。
 伝説の勇者の剣と違って、この剣が刺さっているのはただの土だ。いかに堆積を重ねて密度を増したとはいえ、これほどされて細長い剣を長いこと挟み込んでおける強さなどある訳がない。
 だが少年は頓着することなく剣を握る手に力を籠めて剣を捻り続けている。
「あーでもこれどうやって持って帰ろう。吹っ飛んでったら元も子もねえしな。 ……ひとりで来たのはやっぱマズかったかな」
「だったら、手伝ってあげようか?」
己の軽率さに臍を噛んだその時、頭上から聞こえてきた少女の声に少年はクレーターの縁を振り仰いだ。
「あ?」
そうしてお互いの顔を見合わせた少年と少女は、同時に素っ頓狂な声を上げた。
「あれ? あんた、ジア?」
「え? ファンタ?」


 「飛剣」は特にこの地方に数多く降り注ぐ。
 形状も大きさもまちまちだが、総じて鉱石のような細長い刀身部分を持ち、柄と、垂直に交差する鍔を備えていることから間違いなく「剣」だと思われているが、同じ形状のものが二つとなく、人間が作る剣からすればあまりにも無骨であり、むしろ細長い鉱石といった印象の刀身が謎を呼ぶ代物だった。
 その素材もあくまで「鉱石のよう」であるだけで何で出来ているのかが判然としないが、現在はっきりと判明していることは、「飛剣」は名の通り大地の力に反して宙に浮く性質を持っているということである。いや、その性質故に「飛剣」と称されるようになったのだが。
 爆発的に吹き飛んでゆくほどではないが、どんなに弱い「飛剣」でも、手を離せばゆっくりとでも浮かび上がってゆく。そしてそれは空の果て、見えなくなるまで浮上し続けるのだ。
 強力な「飛剣」はそれこそ人間一人をぶら下げたまま浮上する力を持ち、度々「飛剣」発掘の際の負傷事故の原因となっている。せっかく手に入れた「飛剣」を手離すまいとムキになってしがみつき、ついには力尽きて危険な高度から落下してしまうのだ。
 そんな浮揚力を持つ「飛剣」がなぜ大地に降ってくるのかは分かっていない。
 そもそもどこから降ってくるのか、誰が何の為に作ったのかも不明。
 かつて高名な探検家が真相究明の為「飛剣」と共に空の彼方に消えていったが、それきり行方不明だ。
 そんな特性を持つ「飛剣」は力の強弱問わず高値で取り引きされ、この地方の大きな特産物のひとつとして扱われている。
 その採掘量は地下に埋もれた古代都市を擁する地方の魔法剣や魔法道具に並び、出回ったものは主に王侯貴族や騎士団、冒険者等に買い上げられ、武器を扱う者の選択肢のひとつとして重用されているのだ。
 そして「飛剣」の存在は、古代都市に盗掘屋が取り付くのと同様に、降り注ぐ流れ星を追って跳梁する「飛剣ハンター」の存在をも生み出した。


「って、まさかあんた、昼間オレに近付いたのはこの辺の「飛剣」の噂を集める為かよ!? 」
 なんのことはない旅装束の少女が一人でこの夜の山奥に現れた理由に勘付いたファンタは、剣を握り締めたまま叫んだ。
 ファンタは、「飛剣」を引き抜く為に力を籠めていたのではなく、飛んでいかないように押さえつけていたのだ。
「あー騙された! 結局あんたはこのオレの純情に付け込んでオレを弄んだんだな!? 」
「なによその言い種!? 騙されたのはこっちよ! 昼間はあんなにお上品に振る舞ってたじゃない!? なにあんた、女の子にはみんなああやってクールな仮面かぶって騙してるワケ!? 」
「騙してねぇよ! 紳士の嗜みだっつーの!」
 怒りにまみれた形相で怒鳴りあうファンタとジア。
 特にファンタの美少年然とした元の容貌は見る影もない。
「あーもー久々にイイ女見付けて、どーしてやろうかってあれこれ考えてたってのに色々と台無しだよコンチクショー!」
「……うわあ……」
 彼方に向かって罵声を上げたファンタに、ジアは思いっきり渋面を浮かべて二、三歩後退った。
「ああもういいや! おいジア!あんたちっと手伝ってくれよ! こいつ多分けっこう強い!オレ一人じゃ飛んでっちまうよ!」
 そんなジアの様子に構わず必死に「飛剣」を押さえつけるファンタは手元を見ながら絶叫した。
「……いーけどさ。 あんたの見立てじゃソレどれくらい強そう?」
「分かんね! でも二人もいりゃ押さえられると思う! 早くしてくれ!」
「ふうん」
 先ほどから素っ気ないジアの台詞に続いて じゃらりと金属の鳴る音を聞き、ファンタは怪訝にクレーターの縁を見上げた。
「おい!なにやってん、だ……よ……?」
 その見上げた先の光景に、思わずファンタの台詞が尻すぼみになった。
「……」
 ジアは両手に六本の短剣を抜き出して、冷たい眼差しでファンタを見下ろしていたのだ。
 そして今、それぞれの手で短剣を一本ずつ握り直すと、ジアの左右に手離れた短剣が二本ずつ浮かび上がり、手元の短剣に繋がれたチェーンを真っ直ぐに張って宙に静止した。
 その刀身は、鉱石のような歪な刃。
「……おい……それ、なんだよ……」
「飛剣ハンターが「飛剣」を持ってない理由もないでしょ」
 チェーンで一直線に繋がれた三本の短剣が二対。
 変則的な形状だったが、間違いなくそれも「飛剣」であった。
「二人分の重量で支えられるなら、あんたを死体にして括りつければわたしでも持って帰れるね」
「マジかよ……」
 両手の短剣を眼前にかざして構えながら言うジアに、ファンタの顔が見る見る青くなってゆく。
「い、いやちょっと待て! 待って下さい! あんた、オレと山分けしようぜ!いや、六・四……七・三でもいい!」
 慌ててべらべらと下らない提案を並べ立てるファンタに、ジアの視線はますます冷たく釣り上がっていった。
「ほんっと、最低」
 そして少女はクレーターを駆け降りていった。

「うわあぁあぁああああぁあああああ!? 」
 マジで殺る気かこのクソ女!?
 胸中で罵り絶叫を上げファンタは慌てふためいた。
 飛剣ハンターともなれば、荒事など日常茶飯事のことだろう。あの三連二対の「飛剣」も洒落や冗談では決してあるまい。
 翻ってファンタと来たら、顔と口先ばかりのただの町人である。
 たまたま間近で流星の落下を目撃し、街の発掘業者よりも辿り着くのが早かったが為に「飛剣」をガメての一攫千金を目論んだだけのチンピラ以下の人間だ。
 当然、剣技など望むべくもない。取っ組み合いの喧嘩だって可能な限り避けまくって今日現在まで生きてきたのだ。
 そのファンタに迫る生命の危機。
 迎え討つ術は、ない。
「うっ、うわあああああああああ!? 」
 だからファンタはただ絶叫を繰り返し、闇雲に身を捩ってもがいただけのこと。
 ファンタの握っていた「飛剣」が、とうとう地面から抜けた。
「うおわっ!? 」
「ひゃっ!? 」
 たちまち「飛剣」が飛び上がり、柄を握るファンタごと浮上したことで両者ともに喫驚の声をあげた。
 「飛剣」に釣られたファンタの身体は見る見る上昇してゆく。
「うわっ!? わわわ」
 慌てて足をばたつかせるが、そんなことでは身体が揺れるのみで上昇は止まりはしない。
 既に高度は自身の身長を越え、もうじきこのクレーターから出ようとしている。当然クレーターの中心にいた為、クレーターの縁にはどちらを向いても足は届かない。
「うわわわ!? たすっ、たすけっ」
「ああもう!? なんなのよあんたはっ!」
 それを見上げたジアがクレーターの斜面を駆け登りながら、手元で左右の短剣のチェーンを絡ませた。
 地上まで駆け上がったジアは、一本の長大なチェーンとなった武器を振り回すと上昇を続けるファンタ目掛けて投げ放った。
「うわああ!? なにすんの!? 」
 飛来する鈍い輝きの刃に狼狽るファンタの足元にまで迫った短剣はそこで切っ先の向きを変え、後ろに引き摺るチェーン共々足首で旋回すると絡まり巻き付いた。
 ファンタを捕らえるや否やジアはチェーンを掴み直して力一杯引っ張った。
「よおしっ! って、あら?」
 ところが、ファンタの上昇は止まらずジアまでもがチェーンに引き摺られてぶら下がり浮かび上がってきたのだ。
 ファンタの見立て以上にこの「飛剣」の力は大きかったようだ。人間二人の重量を以てしても、上昇を止めきれない。
「おおおいっ!? ナニしてんだてめええええええ!? 」
「うるさいわね!? なんなのよこのパワー!? とんでもないもの掴まされたわ!? 」
 口々に罵り合う二人を引き摺り「飛剣」は上昇を続ける。
 だがさすがに重量が増したことでその上昇速度は次第に落ちつつあった。
 ゆっくりと下がってゆく周囲の木々の枝葉を見遣り、ジアは自らのチェーンにぶら下がったままその身を揺らし始めた。
「いてて!? おい!なにやってんだよ!」
「さすがにこんなの手に余るからさ。あなたにあげるわ。 わたしはここで降ろさせてもらうし。」
 ここはクレーターの中心で、足場となる地面までは距離がある。
 ところがジアは、まだファンタよりも低い位置にいる内に、自らの身体を振り子の要領で揺すって離れた地面へと飛び降りるつもりらしい。
「あ!こら! ちょっと待て!待って下さい! 俺はどうすればいいの!? 」
「……つくづく下衆ねあんた。 知らないわよ。あの探検家のあとを追って「飛剣」の故郷でも探してきたら?」
「うそおっ!? 」
 次第にジアの揺れ幅が大きくなってきた。じきに跳べば足場に届く距離になるだろう。
「い、いや待って!? 十・ゼロでいいからさ、この「飛剣」を持って帰る方法を考えよう!? 」
「わたしがゼロでいいわ。じゃあね」
「おう!ここだここだ!」
 ついに冷たく突き放されようとしたところで、森の暗闇の向こうから大量のたいまつの炎と共に大勢の男たちがこのクレーターの縁に現れた。
 いずれも荒くれた風体の男たち。街ではおよそ見かけない崩れた身なりの彼らは、恐らく野盗の類だろう。
 あるいは「飛剣」の盗掘団か。
「おおい!見ろよ!でけえ「飛剣」だけじゃねえ!小せえのもあるぞ!」
「待てよ!押すな! こっから穴になってんぞ!? 」
 ファンタとジアを指して騒ぎ出す男たち。
 彼らは同じ青い輝きを放つジアの持ち物まで狙っているようだった。
「……ちっ」
 舌打ちして振り子運動をやめるジア。同じ非合法な立場でも、ジアと男たちとは仲間という訳ではないらしい。
「おいオメエら。おとなしくそいつを渡しな」
 一団の中から進み出てきた、一際大柄な男が片手を突き出してジアとファンタに言ってきた。
 周囲の態度からして、彼がこの一団の頭領なのだろうと思われた。
「いやー。是非ともそうしたいんですがー」
 「飛剣」にぶら下がったまま、ファンタは愛想笑いを浮かべる。
「御覧の通りの有様で~。 助けてもらえませんかねえ?」
 ふと気が付けば、ファンタの握る「飛剣」の上昇が止まっていた。
 クレーターの中心の上空数メートルで静止してしまっている。
 この「飛剣」の力は、ファンタとジアの二人分の重量でようやく拮抗したらしい。
「だからってなにもこんなところで止まんなくても」
「あの、この剣あげますから、助けてもらえると、ありがたいんですけどねえ?」
 ジアがげんなりとぼやいているいるうちにファンタが盗掘団の頭領に懇願を続ける。
 そこで頭領もようやく状況を理解したのだろう。しかめっ面でクレーターを見回し、途方に暮れた顔でファンタを見上げた。
「……なんでこんな間抜けなことになってんだ? 「飛剣」発掘は集団でやるのがセオリーだろうが」
「いや~。若気の至りと申しましょうか……」
「あんたのはただのバカでしょうが」
 引き攣った笑顔でこぼすファンタに、ジアが冷たくツッコんだ。
「まあいい。 おい、持ってるロープ全部出せ。あと長ぇ棒もな。 オメエらはそこら辺から太い枝を掻き集めてこい」
 頭領の指示に盗掘団の男たちが慌ただしく動き回り始めた。
「ああ良かった。もうなんでもいい。早く助けて」
「バカ言ってんじゃないわよ」
 チェーンを揺すってジアが下から言い募ってきた。
「え?なにが?」
「あいつらが「飛剣」を回収して、そのあとわたしたちをそのまま帰してくれると思う?」
 長いロープの端を持った男が、クレーターの縁を半周してゆく。
 それにつれ、ロープがクレーターを横断するように張られてゆくのを感心しながら眺めていたファンタが、やがてきょとんと問い返した。
「……えーっと。 もしかして、殺されちゃう?」
「まず、あいつらにとって真っ直ぐ街に帰られちゃ困るあんたは、しばらく動けないぐらいガツンと殴られるでしょうね。あげく死ぬことはあるかも。手加減する理由もないし。」
 淡々と並べられるジアの指摘にファンタの顔が見る見る情けなく歪んでゆく。
「みっともない顔すんじゃないわよ!? わたしなんかもうきっと死んだほうがマシな目に遭わされるんだからね!? 」
「うわーん!」
 途端にファンタが涙と鼻水を撒き散らして泣き出した。
「いやじゃー! イイ女は全部オレんじゃー!」
「うわ!? 汚い!? 」
 降ってきた唾をジアが渋面で払う。
「こんなことなら、食事のあと、もうちょっと強引に誘うんだったー!」
「……あんたって……」
 ファンタの言い種に、ジアが半眼になった。
「とにかく! 街の発掘業者が来るのなんて陽が出てからだろうし、わたしたちが無事に済むにはちょっと賭に出なきゃかもよ!? 」
「……え?」
 ジアの言葉の意味を汲み取り、ファンタは分泌液まみれの顔で下を見下ろした。
「なにか手があるの?」
「まあね。 あんたと一蓮托生はまっぴら御免だから、気合い入れなさいよ」
 言って、ジアはチェーンから離した片手で服の腰回りをごそごそといじり始めた。
「おい! オメエら、おとなしくしてろっつってんだろうが!」
 ジアの様子に目敏く気付いた頭領が怒鳴り上げた。
 だが構わずジアは作業を続け、やがてジアの腰の辺りからなにが長い帯状のものが落下した。
 それはクレーターの底に激突するなりどす、と鈍い音を立てた。
 途端にファンタとジアの身体が上昇を始める。
「あ! こらあ!」
「え?なに?なにしたの?」
 頭領の怒声を後目に下降してゆく周囲の光景を、ファンタはおろおろと見回した。
「「飛剣」を持つのなら覚えておきなさい! 今、わたしのウエイトを落としたのよ」
 見下ろせば、クレーターの中心に落ちた帯状のものは、いくつかの鉄塊を通したベルトのようだった。
「「飛剣」使いはみんな、自分の「飛剣」に合った適量のウエイトを身に付けてるの! 日常の動作とか戦闘で、バランスを崩さないようにね」
「へー」
 感心するファンタの鼻先を、何かがかすめて飛んでいった。
「へ?」
「ちっ! 撃ってきた!」
 ジアが叫ぶと同時に、ファンタの周囲を幾本もの矢が下から上へとかすめてゆく。
「うわ!? うわわ!? 」
 地上から、盗掘団が弓で矢を撃ち上げているのだ。
「わわわ!? ちょっ、これから、どうすんの!? 」
「「飛剣」は真っ直ぐ浮かぶだけだからね!風に任せるしかないの! あんたが伊達でもマント着ててくれて良かったってところね!」
 やがて高度を増したところで冷たい風が二人の身を撫で、マントがはためき上昇の軌道が変わった。
 だんだんとクレーターがあった地点が遠ざかり、盗掘団の持つたいまつの炎も森の木々に遮られて見えなくなってゆく。
「お、おおー。 ……でもさ、これ、どうやって下に降りるの? 登る一方だよねこれ」
「むしろ、あんたの握力の方が心配だけどね」
 言いながら、足下に感じた振動に見下ろすと、ジアが自らの武器のチェーンを手繰って登ってきていた。
「いてて。 なにしてんの?」
「いい?絶対に「飛剣」を離すんじゃないわよ」
 言うなり、ジアはチェーンを手繰る手を離して落下した。
「え!? おい!」
 だがジアはチェーンの端は離しておらず、その身体はチェーンの全長で停止し、そしてジアの落下の衝撃で二人の身体が一気に数メートル下降した。
「うっ!? わわっ!? 」
「わかった!? これを何回か繰り返すから! あんたは絶対にその手を離さないで!」
「わ、わかった!」
 そして再びジアがチェーンをたぐって登り、手を離して落下した。


 やがて山並みから陽が頭を出した頃。
 街道脇の大木の根本に、並んでしがみついているファンタとジアの姿があった。
「……た、助かった……」
「……もーイヤよ。 なんでこんなことに……」
 結局、あれから下降を続け、どことも知れぬ樹木の頂にまで近付いたファンタとジアは、なんとか幹伝いに地上に降り立つことに成功した。
 なんとも地道で力任せの作業の繰り返しに、ふたりとも身体のあちこちに痛みを抱えていた。
 ファンタが発見した「飛剣」も、ジアの短剣も無事に手の中にある。
「……とりあえずさ、これ、持って帰ろうよ。」
 樹にしがみつきながら、ファンタがその手の「飛剣」を幹にこつこつとぶつけてジアに言った。
「山分けでいいよね」
「……七・三とか言ってなかった?」
「あげく、いらないとか言ってたじゃん」
 ジアの追求をあっさりと突っぱねる。
「まあほら、街まで持って帰るには、二人の重量が必要な訳だし」
「ま、ここまで持ってこれたなら、そうしない手はないわね。」
 ジアは、自身の三連二対の短剣のチェーンを樹の枝に引っかけると、辺りから拳大の石をいくつも拾ってきては、手が離せないファンタの服のあちこちのポケットに勝手に押し込み始めた。
「ちょ、ちょっと」
「ウエイト。わたしのは落としてきちゃったし、こうでもしとかないとまた飛んでっちゃうから」
 言いながらジアも自身のポケットに石をねじ込み、枝から短剣を引き取るとベルトの鞘に差し込んだ。
「ほら。行くよ」
「せーの!」
 合図でタイミングを合わせ、一緒に「飛剣」を抱えた二人が大木の陰から飛び出していった。
 ここまでやっても、重量バランスは危うい。
 まるでバッタかカエルのように、冗談のように長距離を飛び跳ねながら、ファンタとジアは街道を街へと辿っていった。

 こうして街道を一緒に飛び跳ねている内にも、空が明るくて発見し辛いが「飛剣」は昼夜問わずに落下している。この地方では珍しくない光景だ。
「ジアってさ。いっつもこんなことしてんの?」
「あんたじゃあるまいし、身の程はわきまえてるわよ。 わたし一人だったら、こんな大物には手は出さない。効率が悪い」
 素っ気無く応えるジアに、ファンタは親指を立てた拳を掲げて見せた。
「なら、二人掛かりなら効率も上がるんじゃね?」
「……あんたはただの足手まといよ。無駄飯食う分、このポケットの石ころよりも邪魔だわ」
「うう……」
 冷たい台詞にファンタはさめざめと涙に暮れた。
 その時、二人が跳躍を繰り返す街道脇の草原の真ん中から物凄い爆発音が轟いた。
「うわー!? また近くに降ってきたー!? 」
 さすがに二人とも足を止めた。
 地元民であるファンタにとっては、「飛剣」の流星雨は日常の光景だが、二度もこれほど間近に落下したのは初めての経験だった。街の商工ギルドの宝くじでも二度当たったことなどないのに。
 もうもうと土煙を上げるそこを眺め、呆然とファンタが問いかけた。
「……どうする?」


テーマ:チラシの裏 - ジャンル:サブカル

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