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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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第7話 何もかも 元に戻して

 顔面を砕かれて失った女性型の石像が、関節毎に砕けた腕脚を、かろうじて繋いでいる針金を屈曲させて歪な四肢を蠢かせレイカに迫る。


 これなるは「お化粧」の魔女。その性質は「見栄」。


 女性型に見えたと言うのもレイカの主観に過ぎず、まるで土偶のように極端に湾曲してくびれた腹部と胸部の丸い突起からそう類推しただけである。
 結界の中は鏡の抜けた無数の鏡台と不自然に大きなコスメボックスが石畳のように積み上げられて起伏のある大地と成し、辺りを虫のような脚を生やしたパフやコットン、ブラシといった形状の「試供品」の使い魔が跳ね回っている。
「……!」
 レイカは「お化粧」の魔女を遠巻きにしながらコスメボックスが積み上がった丘を駆け抜け、時折飛びかかってくる「試供品」の使い魔をオレンジの魔法球で、あるいはラケットで迎撃していた。
 普段とは勝手が違う。
 いつも共に戦っていたきりえがおらず、いつ乱入してくるか分からない悪辣な魔法少女を気にしながらの戦闘は、思いの外レイカの神経を磨り減らした。
 レイカの「空間掘削」の魔法球は、一度に一個しか放てない。防御無視の強力無比な攻撃力と引き替えに、大量の魔力を圧縮した結果であるからだ。
 普通に遠くから狙撃してやれば呆気なくカタが付くのだが、魔法球が遠くを飛翔している間レイカは攻撃手段を失ってしまう。 そこを御崎 芽衣に狙われると厄介だ。
 魔法球がすぐに旋回して戻ってくるよう至近距離に迫る手もあるが、そうするとまた昨夜のように超巨大ダンプトラックで魔女もろとも潰されかねない。
 だからレイカは「お化粧」の魔女の周りを駆け回り、起伏のある地形の中で最も適した場所を探していた。
(すれ違いざまの一撃離脱!)
 それがレイカの出した答え。
 魔女に致命の一撃を叩き込んだあとの逃げ道が拓けるまで、レイカは地形を探り駆け回り続ける。


「……!? 」
 まるで被せられていた巨大なカゴを開けられたかのように。
 突如、下から上に広がった光にみおみは目を瞬かせた。
 校門の手前で芽衣に巨大なリングを被せられた次の瞬間には、屋外にいたはずのみおみと芽衣は、どこかの建物の中にいたのだ。
 みおみに被せていたリングを頭上に持ち上げた体勢の芽衣は、そのまま二、三歩ほど下がってみおみを見下ろした。
 いつの間にかぺたんと腰を下ろしていたみおみは、周囲を見回した。
 まさに魔法。一瞬で違う場所に移動してしまったことにみおみは素直に感心していた。
 どこかの倉庫だろうか。用途不明の什器とうず高く積み上げられた段ボール箱の山。それらのおかげで遙か高みにある天井の蛍光灯の灯りを遮られたここは少々薄暗いのが難点だ。
 そしてここにはみおみと芽衣のほかにも人がいた。
「さあ。こいつ好きにしていいよ」
 芽衣の言葉は、みおみにではなく、周囲を取り囲む大勢の少年たちに向けられたものだ。
 みな一様にだらしない姿勢と濁った目つきでみおみのことを睨め付けている。
「あら。こんにちわ」
 その少年たちを見て、みおみは座り込んだまま朗らかな笑顔で挨拶した。
「……!? 」
 言われた少年たちは、粘っこい視線を次々と怪訝の色に塗り変えて互いを見合い、やがて少年たち全員が芽衣の方を向いた。
「どうしたの? まさか今さら怖じ気付いたワケ?」
「……いや……」
 顔を見合わせた少年たちのリーダーが、怪訝な顔のまま芽衣に向き直った。
「ちょっと待てよ。「久那中の不思議さま」だなんて聞いてねえぞ!? 」
「は? 」
 今度は芽衣が怪訝顔になった。
 みおみには少年たちに見覚えがあった。
 かつて帰り道で少年らが集まっているところを通りすがった際、最初の経緯は忘れたが、話しかけられてそのまま楽しくおしゃべりしたことのある「お友達」たちだったのだ。
 同じ経緯を少年たちの視点で語られた芽衣は頭痛を堪えるように頭を押さえて目をつぶった。
「……このお姉さまは……!? 」
「あんたナニがしてえんだかさっぱ分かんねえけどよ。さすがにダチはヤれねえぜ?」
 しばらく、奇妙な沈黙が室内を覆った。
「あのさ。このままどっか遊び行かねえ?」
 やがて、少年たちのうちの誰かがおずおずと提案したのを皮切りに、皆が口々に乗り始めた。
「あーもー完ッ全に萎えたわ。つーかヒくわ」
「「不思議さま」はさすがに無ぇなあ?」
「ちょうどイイじゃん、いつか一緒に遊び行きてえって思ってたんだ!」
「はは!それいい!」
「あのー。でもわたし、家事とかー」
「少しだけ! な?少しだけだからさ!」
「ちょっと駅裏のあそこ電話しとけよ、スペース取られんなって」
 そうか芽衣ちゃんはみんなと遊びに誘ってくれたのかとみおみが理解したところで、

 ぼぎんっ!

 突如響いた鈍い破砕音と苦悶の絶叫に全員が身動きを止めた。
 芽衣が持っていたリングで少年のひとりの脚を、大腿部を殴り付けたのだ。
 宙に浮く勢いで壁に激突し床に崩折れて泣き叫んでいる少年の押さえた太股は、付け根とひざの中間辺りで有り得ない角度に折れ曲がっていた。
「……ふ ざ け ん じゃ な い わ よ……」
 ゆらり、と芽衣が青白い無表情で見上げた。
 それは年頃の少女にあるまじき凄まじい殺気を纏っていた。
 リーダー格と数人はそんな芽衣をも睨み返していたが、他の少年たちは完全に怖じ気付いて後退っている。
「アタシは、連れてきた女を犯れって言ったのよ!? なに暢気な顔で遊ぶ算段なんか立ててんの?」
「おいテメエいい加減にしろよ」
 少年も負けずに言い返した。
「こちとら楽しきゃいいけどよ、犬コロみてえに来た女すぐ喰えとかバカにし過ぎだろ!? 」
 仲間の何人かが、手元で金属色の閃きをかざした。折り畳み式のナイフだ。
「おいマサキ、「不思議さま」連れて逃げろ」
 リーダーの指示で一番端にいた最年少の少年がみおみの元にやって来た。
「こっち」
「あ」
 少年がみおみの手を取って立ち上がらせる。
「セージ、ちょっと待ってろ。ここじゃサツもなにも呼べねえからな」
 脚を折られた少年に告げると、リーダーの手振りで各々凶器を構えた少年たちが芽衣を囲んで散開した。
 その間にもみおみは少年に手を引かれて彼らの後ろを回り込んでゆく。
「あ、あの~、ケンカは、よくないですよ?」
「アンタはこんな時になに言ってんだ!? 」
 なぜか剣呑な雰囲気になった一同に言ってみるも、手を引く少年から呆れた声で遮られた。
「……ああ、そう」
 完全に敵対した少年らに向かって、芽衣は呆れた顔で巨大リングを肩に担いだ。
「犬ほども役に立たないんじゃ、殺すしかないよね。 魔女の餌にもちょうど良いしね。 キュゥべえ!」
 芽衣の虚空への呼びかけで、段ボールの山の上にキュゥべえが座っているのをみおみは発見した。
 ただし、キュゥべえの姿はこの場では芽衣とみおみにしか見えないはずである。
「ちょっと計画変わったけど、別にいいよね?」
『うん。構わないよ』
「やっぱテメエ、イカレてるぜ!」
 朗らかにうなずくキュゥべえの台詞が聴こえない少年らは、芽衣を異常者だと断定したらしい。リーダーの罵声と同時に少年たちが殺到した。
「あの!? 」
 それを止めようとみおみは声を上げたが、今さらそんなものは届かない。
 少年に手を引かれるまま歩くみおみは、そこに予想通りの展開を目にして痛ましげに眉を顰めた。
 魔法少女に変身した芽衣の腕力は尋常ではなかった。
 それなりに鍛えているであろう少年の大腿骨を、リングなどという不安定なものでへし折った芽衣の膂力は襲い来る少年らを片っ端から薙ぎ払って見せた。
 幸いみおみの手を引く少年は背後を振り返らず真っ直ぐ前を向いているので惨状を目撃せずに済んでいる。
 どうしたものかと思案しているそこに、段ボールから飛び降りてきたキュゥべえが床を横に並んで歩きながらみおみにテレパシーで話しかけてきた。
『やあみおみ。立て込んでいる最中に悪いんだけど、君にお願いがあるんだ』
 後方で起きている惨劇などないかのようにキュゥべえは語り出した。
 みおみも、思考の中で応答する。
『ええと、本当にお取り込み中なので、あとにして欲しいんですけど』
『ボクと契約して、魔法少女になってよ! ボクは君の願いをなんでもひとつ、叶えてあげる! その代わり、みおみには魔法少女になって欲しい』
『キュゥべえさん、あなた……!? 』
 さすがにみおみにもキュゥべえの目論見が理解できた。
 それどころか、余りにも露骨過ぎる。
『どうだろう。芽衣が言っていたんだけど、差し当たって急ぎの用事がみおみにはあるらしいね?』
「……!? 」
 黙り込んだことで、芽衣のいる所から罵声と鈍い打撲音がよく聞こえてくる。
 少年たちの中には鉄パイプを持った者もいたはずだが、芽衣の悲鳴は一度も聞こえてこない。
『……キュゥべえさん。わたしが魔法少女になると、キュゥべえさんにはそんなにメリットがあるんですか?』
『へえ?』
 歩きながらこちらを見上げるキュゥべえの表情は相変わらず知れないが、脳裏に響いてきた声は感嘆の意図に溢れていた。
『そこに人間が気付くことは、実に珍しいことだよ! みおみ。君は人間としては非常にに優秀だね!』
『あるんですね? 魔女をやっつけることとは関係ない、キュゥべえさんにとってのメリットが?』
『……!』
 みおみの断定に、今度はキュゥべえが沈黙する。
『やれやれ。みおみは優秀だ。優秀過ぎる』
 溜め息を漏らしながら、キュゥべえは歩きながら頭を振った。
『……だったらもう分かるだろう? それにタダでとは言ってない。ボクは儀式的に候補者の願いをひとつ、叶えてあげなくてはならないんだ。だから、ものはついでと思って望みを言ってごらんよ。芽衣が、あそこの人間たちを一掃してしまう前に』
『その必要はないよ』
 突如テレパシーに割り込んできた声と共に、この倉庫のような建物の入り口のシャッターがまるで地震でも起きたかのように小刻みに震えて、真ん中に四角い穴を開けた。
 そこに現れたのは、草原妖精のような緑衣を纏った魔法少女・綾名 きりえだった。
 水平に構えたフルーレで、その高速の刺突でシャッターに人がくぐれる大きさの四角のミシン目を描き、突き破ったのだ。
 床に激突したシャッターの切れ端が、がしゃあんと耳障りな騒音を立てた。
 反響する騒音に、芽衣を中心とした喧噪が一時止まる。
「きりえちゃん!? 」
 喜色を上げてみおみが呼びかけるも、きりえは暗い眼差しで奥の芽衣を睨み付けたまま、一歩、倉庫の中に入った。
 既に少年たちの中で立っているものはいなかった。
 それぞれ身体のどこかを押さえて呻く少年たちの中でつまらなそうに立っている芽衣が、実に白けた顔できりえを迎えた。
「綾名 きりえ。 何の用? どうしてここが分かったのかな? ……アタシ、見透かされんのは大ッ嫌いだって、言ったよね?」
「うるさい」
 淀んだ瞳できりえが一蹴した瞬間、唐突に芽衣の姿がボタンに変じて消失した。
 それと同時にきりえが身を翻して倉庫の外に駆け出してゆく。
 事の異常に飽和して立ち尽くす少年を置いて、みおみも外に駆け出した。
 出てみると、ここは入り組んだ場所で、細い路地の彼方に車の往来が辛うじて見えるような奥まった場所だった。
 その路地を駆け抜けながら、きりえがボタンを遠くに投げては芽衣の身体を次々と転移させてゆく。
 車が往来する車道の方へ。
「きりえちゃんっ!? 」
 きりえのやろうとすることに見当が付いても、今のみおみには止める手だてがない。
「ってっ!? てめえ!? 」
「とりあえず、消えろっ!」
 最後の宣告と共に、路地の外の県道を高速で走るトラックの前に投げ込まれたボタンと配置を交換させられた芽衣の姿が、巨大な質量のもたらす急ブレーキと激しい激突音と共に見えなくなった。
「…………」
 やがて路地の外に喧噪が巻き起こり、だがそれらを無視してきりえが倉庫の前のみおみの所まで歩いて戻ってきた。
「……きりえちゃん……」
「あんなんじゃ、死にやしないわよ」
 吐き捨ててみおみの目の前に立ち止まったきりえは、無言で変身を解除して私服姿に戻った。
「……!? 」
 そしてやおら崩折れるように座り込んで両手を地面につくと、いや、まるで土下座のように身体を丸めると堰を切ったように嗚咽と共にそれを吐き出した。

「お願いっ! もう嫌なの!? もう耐えられない! 」

 涙を溢れさせ、きりえがみおみの顔を振り仰いだ。

「だからっ!? お願い!返して! 元に戻してえっ!? 」

 絶叫し、必死にみおみに懇願する。
 みおみは、わずかに喫驚しながらそんなきりえを見つめていた。

「私はもう魔法少女になっちゃったから! だからもう、あんたに頼むしかないの! お願い!あんたが契約して、何もかも元に戻してっ!」

 夕焼けの朱とビルの影のツートンカラーに挟まれた矩形の峡谷の底で。
 懺悔を叫ぶ暗闇の中の少女の前で、朱に染まるみおみは黙ってそれを見下ろしていた。




◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

「困ってるお友達を、わたしは助けてあげたいんです。」

第8話 わたし、魔法少女になります

◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

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テーマ:二次創作 - ジャンル:サブカル

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