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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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クリサリス・エマージュ 第8話




『おおお!?』
蛇のようにのたうち襲いかかる、ベルクの操る二筋の刃。
智晴はかろうじて右からはマホークトマホーク、左からはゼクターのシールドで受け止めるが、刃の当たった所から刀身が湾曲して先端が迂回し、背後からマホークを直撃した。
『ぐうっ!?』
『ックックック……』
《プット・オン。》
三度、ベルクはゼクターのレバーを操作し、引き寄せられるように今度は胸部装甲が装着された。
装着されたマスクドアーマーはすべて紫色。プラチナ色の軽装甲がほとんど隠された今、顔面の紫のラインと相まって、全体のカラーの比率が大きく反転している。
背部に、巨大な紡錘形の部品が二基接続されている。形状からして、ただの装甲ではないだろう。なんらかの装置であるはず。
倒れ伏すマホークへ、獲物をなぶる肉食獣のごときゆったりとした歩みで迫るベルク。


「ひィッ!?」
その部屋へやってきた赤銅色の化け物・・キャンバロイデスワームの異様に脅える亮介。
次の瞬間。そこにいたキャンバロイデスワームの姿が消滅した。
「え……あだ!?」
同時に自分の頭を支えていたひざまくらも消滅し、頭を落として驚愕する亮介。
「……あれ?」
見上げれば、自分にひざまくらをしていたあの謎の少女の姿もかき消えていた。
「……どうなってんだ?これ……」
木製の長椅子の上で身を起こし、自分だけとなったこの部屋を見回す。


◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆


◆ワーム・1◆

《プット・オン。》
そして四度引き寄せられた部品が、今度は頭部に装着され。
ベルクはこの加速空間中にあって完全なマスクドフォームに変貌した。
『ックックック……』
紫紺の装甲に包まれたベルク・響音は余裕の含み笑いのまま、目前のひざをつくマホークに迫り、ベルトのゼクターに手を添えた。
今度は丸い翅によるレバーを、内側のバッタ脚レバーと一緒に引き倒す。
タキオン粒子変換エネルギーのチャージアップが始まり、電光が全身を這い回る。
もはやマホークは逃げようとしても無駄。この距離にあって、この自分から逃れられる術など何者にもありはしないのだ。
そして翅レバーを引き戻した。


◆明智 智晴・1◆

敵のトリッキーな攻撃に翻弄され、ひざをつく智晴。
目前に迫る今は紫紺のライダーに対し、攻め手を考えあぐねていた。
『(どういうわけか、既に完全迷彩は見破られている。マホークのスペックでは、こいつに太刀打ちできないのか……!?)』
だが状況は智晴の思考を待たず、敵はゼクターを操作し、チャージアップを開始した。
『ライダー・ソニック。』
《ライダーソニック!》
『なに!?』
敵のゼクターが発した音声は、謎の巨漢ライダー・クライプの持つチャージアップアタックと同じ名を告げていた。
どうやらスズムシを模したらしいゼクターからして、敵の放つ攻撃が同様の《破壊音波》なら、いかなヒヒイロノカネの装甲とはいえ目前で喰らってはひとたまりもない。
だが走って逃げようにも、敵の持つフレキシブルレイピアで背後から貫かれよう。
かつて、マホークマイザーの自爆でクライプの破壊音波を一時的に防いだことがあったが、マイザー射出機構はマホークのマスクドフォームの装備。加速中では望むべくもない。
絶体絶命。
紫紺のマスクドライダーの、背部の紡錘形の部品二基がゆっくりと起き上がり、両肩の上に移動したのを見て、智晴は……。


◆数寄屋 亮介・1◆

「とりあえず、逃げてみようか……」
自分以外誰もいなくなったこの部屋で、無音のまま、少し待っても何者もやってこないのを見て亮介は、この恐怖の巣窟から脱出すべく、音をたてないようにゆっくりと立ち上がった。
「あいつらって、きっとあの時の公園に来たやつらと同じだよな……」
かつて、大男とともに遭遇したことのある緑色の異形、まるで己が目を覆い嘆き悲しむような面相の異生物の群れを思い出す。
とても友好的とは言い難い、むしろ害意すら感じる化け物たち。やはり、世界は滅びに向かいつつあるのだろうか。
「いや、きっとあの人は、この化け物に対抗しているんだ。」
公園での遭遇時、亮介をかばって異形の前に立ちはだかった大男は殺されることなく、だから今日ふたたび会うことができたのだ。
この拉致される前、亮介の目の前で装着してみせたあの鎧。きっとあれが大男の戦う力なのだ。
そう言えば、あの暴力男も同様の鎧を所持していた。
「逃げよう。あの人たちの所まで。あの人たちなら、あの化け物をなんとかできるんだ!」
意気込んで、この部屋にふたつある扉のひとつに駆け寄る亮介。
がちゃ。
「ひ!?」
その時、何者かが亮介がいるのとは反対側の扉を開いてきた。

「亮介!だいじょうぶ!?」
「うわあわあうああぁって、あれ!?」
その反対側の扉から飛び込んできたのは、見覚えのある人間。
枕木 春瑠であった。
「わたしだよ!? わたし!」
「え!? どうして!?」
どうして、ここまで来れたのか。どうして、ここが分かったのか。
浮かぶ疑問は多く、一度に口には出せない。
だが春瑠は一切頓着せず、立ちすくむ亮介の腕を掴んで引っ張りだした。
「いいから早く! ここから逃げて!」
「う、うん!?」
逡巡する意識ごと亮介はそのまま引き摺られるように春瑠と駆け出した。


◆明智 智晴・2◆

『(南無三!)』
敵のチャージアップアタックが炸裂する寸前。
ある考えに至った智晴はその可能性に賭け、左腕マホークゼクターの胸部側面にあるスロットルボタンを押し込んだ。
『ライダーカムシン!』
《ライダー・カムシン。》
チャージアップエネルギーによる偏光フィールドを始めとする、あらゆる強力なジャミング波が展開されるのと、敵の背部の紡錘形の部位からまるで大小様々な鈴の雪崩のような大音響が放射されるのは同時だった。
ゆらめく智晴の視界。壁を抉り塵化してゆく見えざるその半径が、智晴の立つ地点を迅速に通過した。
《ライダーカムシン》によるジャミングフィールドはその破壊音波を中和・無害化させ続けた。獣毛のようなスーツ表皮『スマートスキン』がフィールドを突破してきた音波を吸収、頭部ボーンシェルメット内の聴覚センサーが聴域を調整し、害音をシャットアウトした。
『うおおお!』
それと同時、智晴は両手の水晶の戦斧マホークトマホークを束ねて合体させ、目前の紫紺のライダーへ駆け一本の大戦斧となったそれを振りかぶった。
『!?』
真っ向からの一撃は、だが咄嗟にかざされた紫紺のライダーの左腕マスクドアーマーを粉砕したに留まる。
互いにとっての意外な交錯。
《クロックオーヴァ。》
加速状態の解除。同時に足場が瓦解しだした。
周囲の壁を破壊されたこの吹き抜けの廊下が、自重に堪え兼ね自壊したのだ。
バランスを崩したままなす術なく投げ出されるマホークと紫紺のライダー。
『しまった!?』
地階まで十数メートル。
ライダーにとって足からの着地ならなんの問題もない高度だが、今のこの体勢ではダメージは免れない。


◆ワーム・2◆

一連の様子を、二体のワーム・成体が施設屋上の床の窓(施設内から見れば天窓)から見下ろしていた。
二体のワーム、すなわちジガバチの生体相を持つアモフィリアワームと、まるで包帯のようにムカデのような多節帯をヒト型にぐるぐる巻きに編み上げたジオフィリドワーム・ベルジアンと。
『あれだけの手勢が一瞬で消滅か。なかなか骨のある敵だな。私の心配は杞憂であったか。』
『アイカワマイナめ。あれだけデカいクチを叩いておいて、敵の手の内を見るまでもなく全滅したではないか。たいした作戦だ。』
赤黒いアモフィリアワームがアゴをしゃくり嘲笑する仕草を見せた。
『ふん。そんな姑息な手段など使わず、正面から堂々と戦えばよいのだ。マミヤレイナへの誓いに賭けて、私は負けはせん。』
『くだらん。そもそもこの計画とやらも理解に苦しむ。』
『貴様、マミヤレイナを愚弄するか!?』
ジオフィリドワームの台詞に、色めき立つアモフィリアワーム。
『貴殿といえど、マミヤレイナを愚弄することはこの私が許さん!』
『おぅおぅ。すまんな騎士どの。だが、さてどうする?ここで奴らの手の内を明かすことが今回のマミヤレイナからの命令。それはいずれ奴らを簡易に排除するための作戦だとするならばつまり、今この場で奴らを殲滅しても同じことだな?』
『貴殿、なにを考えている?』
『ふ。心配するな。俺のライダーシステムは使わん。それならば問題はなかろう?』
『貴殿、自重せよ。貴殿とそのライダーシステムは、マミヤレイナの目的の要。』
『わかっている。さあ、マミヤレイナの命令を遂行するとしようか。コバヤカワヒビネだけに遊ばせておくのは』
『む!?』
『ぬ?』
その時、異なる時間流の干渉を感知した二体。
本能的にクロックアップし加速空間に突入したところで。
立ち上がったジオフィリドワーム・ベルジアンの胸板を、光弾が貫いた。


◆火場 弘司・1◆

灯の落ちた巨大なビルの屋上に、吹きつける寒風などないもののごとく立つ黒い人影があった。
ハーフマントを風になびかせ、深夜だというのに赤いミラーグラスをかけたまま、その方角を見つめている。


|火場 弘司(ひば・こうじ)。見た目二十歳ほどの、傭兵に始まる裏稼業を生業として生きてきた人間で、最近ゼクトなる組織にスカウトを受けて雇われた。
その依頼内容とは、ひとつは新兵器の被験体となること。


『その方角』すなわち目標の施設の付近で、その時虹色の光が現れ、施設の塀を貫いて突入していった。
「……隠密という言葉を知らんのか……? 分かり易くて結構なことだ。」
つまらなそうに呟いて、予定の行動を開始する。
ハーフマントの下で腕が動くと、抜き放たれたその手には、どこにしまっていたのかヒトの腕ほどの長さの湾曲した棒杖が握られていた。
『く』の字に折れ曲がった付近を握り、先端にあるトリガーを引く。
響き渡る、なんらかの発信音めいた音。
やがてジョウントを抜け、火場のもとへ飛来してくる巨大な機械仕掛けの赤とんぼ。
長大な腹部にリボルバーをぶら下げたそれは、火場のかざした棒杖に尻から近づくと合体した。
「……変身。」
《ヘンシン!》
その棒杖・・長大な銃と化したグリップを握る右手から順次ハニカム構造状に展開形成される装甲。
そこに、赤いドレイク、『仮面ライダー レディック・マスクドフォーム』が現れた。

そしてすぐにグリップと合体した巨大な赤とんぼ・・レディックゼクターの翅を立ち上げる。
アーマーパージのためのチャージアップが始まり、マスクドアーマー各部がパーツ単位で次々とせり上がってゆく。
『キャストオフ。』
《キャスト・オフ!》
立ち上げた翅レバーを手前に引き倒した瞬間、吹き飛ばされてゆくマスクドアーマー。
そのあとに現れるのは、これまたドレイクのカラーリングを赤系にした姿『レディック・ライダーフォーム』であった。
完成したその奇形のライフル、レディックゼクターを目標の施設へ向け、その超高解像度スコープで観察を開始する。


そしてもうひとつは、契約期間中はゼクトの対ワーム戦力として指揮に従うこと。
今回、ゼクトの戦闘要員として受けた任務は、ワームに注目されている、とある少年の観察であった。


少年に近しいライダーがいたことは好都合だった。
なにしろこのレディック、ライダーシステムは強化服がその出自であるわりに、遠距離狙撃能力に特化され、格闘能力がオミットされているのだ。
だが、さっき飛び込んでいったネオゼクトのライダーのおかげで効率良く事が運べるというもの。
所属不明の二人のライダーも、こちらの思惑に乗る形で動いてくれているようだ。
ゼクト以外のライダーがどうなろうと知ったことではない。
利用できるものはなんであろうと利用するのみ。
自軍の損耗は、ないに越したことはないのだ。
もしも彼らが少年を見殺しにしたなら、その時はその時であったが。

やがて、目標の施設の屋上に現れた二体のワーム・成体の姿を発見した。
他のワームとは違い、理性的な、妙に人間臭いその挙動。恐らく、既に人間の記憶を取り込んでいる、格上のワーム。
それらがリーダー格であることを見てとった火場は、己の成すべきことに取りかかる。


火場 弘司は超一流の狙撃兵であった。
砲や銃から射出される弾丸の軌跡を完全に把握・イメージできる。
その特性により与えられた新兵器とやらも長距離狙撃兵器。
ならば自分のするべきことは、己の特性に従い、それによって成すべきことを成すのみ。


『クロックアップ。』
《クロックアップ。》
加速空間に突入。
途端に無音となる世界。
この環境は実に集中しやすいと火場は考える。
レディックは、狙撃姿勢を維持したまま、右手でレディックゼクターの翅の基部である胸部パーツを掴むと、ゆっくり手前に引き始めた。
長い腹部をレールのようにしてスライドされる胸部パーツ。
その腹部の節目を通過するたびに、一段階ずつ伸長してゆく銃身。
手前に引ききった時には、その銃身は倍ほどの長さになり、形状をよりライフルたらしめていた。
そして尾部のヒッチスロットルを引く。
『ライダー・スナイプ。』
《ライダー・スナイプ。》
発揮されたチャージアップエネルギーは、だが特に光弾の精製に使われるではなく、レディックの身体強化にまわされた。
レディックのコンセプトは、あくまでも『精密な狙撃』。
ゆえにその全てはレディックの狙撃能力のために費やされる。
敵を貫くべき弾丸すら、チャージアップアタックに等しい威力を込められたカートリッジを六発、レディックグリップに召喚されるたびにゼクター腹部のリボルバーに装填され用意されるほど。
発揮されたチャージアップエネルギーは、動体視力・思考速度・照準精度・銃を保持し操る腕力・狙撃のための姿勢制御などを大幅に強化した。
火場は、銃のセレクターを通常光弾から専用チャージアップカートリッジへと変更し、強化された狙撃能力で改めて狙いを定めた。
そしてトリガーを引き発射された強化光弾は、数キロメートルの距離を一瞬で越え、目標のワーム・成体の胸の真ん中を貫いた。


◆ワーム・3◆

『……。』
胸板に大きな穴を空けられたジオフィリドワーム・ベルジアン。
『……何かの干渉を感知したかと思えば、ここに来たのは弾丸のみか。』
だがまるでなんの痛痒もなくつまらなそうに吐き棄てる。
『なるほど、遠方からの長距離狙撃か。小癪なマネを。』
『むう、卑怯な!?』
しゃべる間に、ジオフィリドワーム・ベルジアンのその胸部の穴が、みるみるふさがってゆく。


ジオフィリドワーム・ベルジアンの身体は、無数のムカデのようなものが複雑に編み合わせられることによって構成されている。
それは一個体の生物ではなく、『ひとつの意志を形成する寄り集まった群体』。
ゆえに、四肢五体を備えたヒト型に見えても、仮に頭部を吹き飛ばされたとしても『思考する部位』は全身に行き渡っているため、機能停止はしないのだ。


『……出直すぞ。あんなものが見ている所に長居はできん。』
隣のアモフィリアワーム目掛けて飛来した二発目の光弾に自らの片腕を差し出して防御するジオフィリドワーム・ベルジアン。
光弾は、その腕を四散させて消滅し、アモフィリアワームにまでは至らなかった。
『おのれ……!なんたる屈辱か!?』
『熱くなりなさんな騎士殿。これで、この件に関わるライダーどもの情報は得られた。使命を果たせたと考えろ。……まぁ俺には意味のないことだがな。』
『くっ……!? 』
ヒトの形を欠いたジオフィリドワーム・ベルジアンに続いてアモフィリアワームも逃走を開始した。


◆明智 智晴・3◆

『おおお!?』
崩れた体勢のまま落下するマホーク。
そこへ飛来してきたマホークエクステンダー・エクスモードが智晴の下へ滑り込み、かっさらう勢いでマホークの身体をすくいあげた。
『助かった!? さすがウチの技術力!』
あわてて立ち上がり、マホークエクステンダーの自律行動をマニュアルに切り替えて操作する。
『……! あのライダーは!?』
見回せば、あの落下からなんと体勢を立て直して脚から着地した謎のライダーは、一瞬こちらへと踏み出しつつ立ち留まり、すぐにきびすを返して走り去っていってしまった。
その理由は分からないが……。
『今のは、完全に痛み分けだった。だが、あのまま戦い続けていたら、どうなっていたか……』
互いのチャージアップアタックが無効だと知れた今、もしもう一度対峙したなら、剣戟による攻撃にのみしぼってくるだろう。そうなったら、勝てるかどうか。
今の智晴には分からない。


◆ワーム・4◆

『(ちィィィィ!? なんて生意気なヤツだ!?)』
着地したところでほぞを噛む響音。
超音波は、吸収されたところで相手の位置の把握にはなんら支障はなかったが、ベルクのチャージアップアタックがまるで効果がなかったのは納得がいかなかった。
ならば優位にあった剣戟にてこのまま戦闘を続行しても良かったが、憎き相手は飛翔手段を持ち上空にいる。
そこはフレキシブルレイピアの射程外。
仮に、さらに高空まで逃げられたら追撃できない。
落下軌道を制御できないベルクの跳躍能力では隙をさらす等いささか分が悪いなど、いくつかの懸案事項を加味し、響音は苦渋の退却の決断をした。
『キィイイムカツク!あんなヤツにィイイイ!?』


◆数寄屋 亮介・2◆

コンクリートで囲まれた、薄暗く無機質な空間。
リノリウムの廊下をひた走る春瑠と亮介。
「ねえ!? あのさ、なんでここがわかったの」
「待って!」
途中、雰囲気に耐えきれず話しかけたところでそれを遮られる。
立ち止まる春瑠と亮介。
緊張した様子の春瑠に何事かとその先を見れば。
何者かが道を塞いで立っていた。
「ひッ!?」
それは見覚えのある人物。すなわち、喪服めいた漆黒のカントリードレスをまとった女と、亮介を拉致してきた謎の少女であった。
「……少年。どちらへおいでですか?」
その二人の放つ、異様な雰囲気が亮介の意気を萎えさせてゆく。
薄い笑みを浮かべて数歩進み出てくる謎の少女。
するとその少女の姿がぼやけ、歪み、肥大し、なんと化け物の姿へと変貌してしまった。
「ひィイイィイイィ!?」
それは、先ほど見かけるなり姿を消した、ザリガニめいた化け物と酷似していたが、表皮が青い。さっき見たのとは別の化け物らしい。
それがこちらへにじり寄ってくる。
春瑠が、前を向いたまま後退し、腕をかざして亮介を押しやってくる。
情けないことに、先導してきた春瑠の陰に隠れる形で後退る亮介
「(どうするんだ!? 逃げるんだ!? 逃げなきゃ……)」
恐怖に混乱した頭脳はまともに働いてくれない。
左右は壁。窓もなく、来た道を戻るしかないのか。
その時。
突如横の壁を砕いて現れた虹色の奔流が、その青いザリガニの化け物を飲み込んで反対側の壁を貫き通り過ぎて消えてゆく。
「な!? な!?」
まったく脈絡のない怪現象。それきり、謎の少女のザリガニ怪人は現れない。
「なんてこと。しぶといライダーですこと。」
呟くなり今度は、その喪服の女までもが異形の姿に変貌した。灰色の甲殻に覆われた化け物に。
「えぇええええ!?」
窮地は続く。
せめて今の虹色の流星がもう一度現れて、あいつを吹き飛ばさないか。
祈る亮介の見つめるそこに、流星ではなく無人のバイクが壁を粉砕して飛び込み、その灰色の化け物を叩き潰した。
「えぇえええなにそれええええ!?」


◆伊達 新星・1◆

『うおおおお!? 亮介!どこだああぁああ!?』
相変わらず、無駄に増幅された攻性障壁を放射しながら施設の敷地内を駆け回る新星。
現在、バイクにとてつもない加速がかかっているため、一旦停止しての方向転換ができず、広大な旋回半径を描いて走り回っている。
その中、適当に目をつけた、たまたま旋回した時に正面にきた建物めがけて突進する新星。
『(とりあえず、こうして暴れときゃ、そのうち敵か誰かが出てくるだろう)』
そんな言い訳めいた目論見を脳裏でぼやきながらその壁面に突撃する。
その向こうの廊下にいた青いワーム・成体に気付いた瞬間に轢き逃げして反対側の壁を抜けたその時。
ジェイルの視界の端に、少女と一緒の亮介の姿があったことに、そこからだいぶ通り過ぎてから新星は気付いた。
『いたあああああ!?』
マシンゼクトロン・アンプリファイの増幅装置を停止。
バイクを急停止させた新星はその場でターンし、元の場所へ駆け戻ってゆく。
今の一瞬の邂逅で、亮介がワームに追いつめられているのはわかった。
見えた。いま自分が空けた壁の穴から、もう一匹の灰色のワーム・成体が覗けた。
『待てええええい!?』
バイクをそこで急停止。
その反動を利用して飛び降りた新星は、またさらに自身のその勢いを利用してバイクを持ち上げ、ワーム・成体がいると思しき壁めがけてバイクを豪快に投げつけた。


◆ワーム・5◆

突然壁を突き破って飛んできたバイクに叩き潰されたかに見えたマクロケイラワームだったが、受け止めていたバイクを掴みあげて難なく起き上がった。
『…………。』
バイクを脇に放り棄てる。
『待てや!コラァ!』
砕かれた壁の穴からアイスグリーンのライダー、ジェイルが飛び込んでくる。
そしてそこの少年と少女の前に立ち塞がりこちらへ構えてきた。
『……どちらも、いまいましいこと。』
あれだけの手勢を用意したというのに、一体なぜこのライダーがたいしたダメージもなくここにいるのか。
そして少年の脱出を手引きした少女。
藍川 舞菜は状況の理不尽に怒りつつ、この場での行動を模索する。
『(すべて、叩き潰してしまいましょうか。少年の替わりは、いくらでもいる。)』
だが、つい思考が短絡に偏る。
そこへ、新たな足音が接近してきた。
少年の後方から現れたのは、またライダー。
いつぞや小癪にも自分に大打撃を加えてきたクライプである。
『(ライダー二人……!? あの者たちは一体なにをしていたの!?)』
多数の手勢に加え、マミヤレイナより借り受けた三体の側近がいたにも関わらず、二人ものライダーの跳梁を許すとは。
『……………………!?』
あまりの怒りに、マクロケイラワームの腕が震え出す。
怒りに任せて暴虐の限りを尽くしたくなるが、状況は不利。予定ではライダーは始末しなくても、少年は連れ出すはずだった。
『…………。』
緊迫する場の空気。
苦渋の決断。
クロックアップするのは、マクロケイラワームとライダーと同時だったが、藍川 舞菜は壁に空けられた穴から逃走を開始した。
戦闘を予想していたらしいライダーは、動かない少年をかばう位置に移動したのみで、もうこちらには追いつけない。


◆数寄屋 亮介・3◆

「おおっしゃ亮介!無事だったか!」
突然そこに飛び込んできた謎のアイスグリーンの装甲服が溶けるように消えたあとに現れた暴力男が、やおらこちらへ駆け寄ってきて肩に組み付き頭を乱暴にかき混ぜてきた。
「あ、はあ。いてて」
かなり荒っぽい所業だが、こちらの無事を素直に喜んでいるらしいその気持ちは悪い気がしなかった。
あの謎の装甲服について驚く暇もない。
「亮介!無事でなにより!」
背後から、いつの間にか大男までが現れた。
「はあ。どうも。」
「テメエは近寄んじゃねぇよ!? 亮介が鼻息で潰れるだろうが!?」
同様にこちらの心配をしてくれていた大男が近寄ってくるが、その前に暴力男が立ちはだかり大男を押しやる。
「なにを分からぬことを。人間が鼻息で潰れるわけがなかろう!?」
「テメエ自分の馬鹿力をちったぁ自覚しやがれ!?」
なにやらケンカが始まってしまう。
「あ、あの……」

「どうやら、数寄屋 亮介君がヤツらの目的の要にされてしまっているみたいですね。」
今度は白スーツの男まで現れた。
「あ。あの、……車が、運転手さんが……」
高級車で送ってもらったのは、ついさっきのことである。
その途上で化け物に襲われ、車は大破してしまった。
一瞬だけ見た炎上する車。よく見えなかったが、運転手の身が心配だった。
「運転手さんは、大丈夫ですか?」
「……、ええ。あのあと連絡を受けまして。無傷とはいきませんが、生きてますよ。大丈夫です。」
「よかった……」
一瞬セリフに詰まったように見えたが、その内容に亮介は安心した。
「こちらこそ不用意でした。……そこのボンクラ二人!いつまでじゃれてるんですか!?」
「ダレがボンクラだクラァ!?」
「こうなったら、この件はここにいるライダーで手を組む必要が……」
「よかろう。そちらの情報を……」
なにやら大人同士で何かの話を始めた三人。

解放された亮介は、やや置き去りぎみだった春瑠のほうを振り向いた。
「ゴメン。その……、ありがとう。助けてくれて。」
「あ。……うん……」
なぜか居づらそうにそこに佇んでいた春瑠は、歯切れの悪い返事を漏らす。
目を横に逸らしてうつむく春瑠。
いつもの斜に傾けた皮肉げな眼差しがなく、なんだかいつもと様子が違って見えた。
先日機嫌を損ねたままではあったが、どうもそのことを気にしているのとは違うようだ。
「…………?」
春瑠と居るときはたいてい聞き役だった亮介は、いつもと違う空気に戸惑う。
ふと、さらわれる前に大男が言っていたセリフを思い出す。

『『好き』だということは、『その人がいるだけで幸せ』だということだ』

「……! ねぇ、ちょっとこっち来て」
するべきことを思い付いた亮介は、春瑠の袖を掴んでその場から駆け出した。


◆数寄屋 亮介・4◆

メガフロート『クリサリス』の最南端。
閉じこめられていた施設のすぐ近く。外縁に沿って作られた海沿いの遊歩道へとやって来た亮介と春瑠。
手摺りの側まで駆け寄ってから、辺りを見回して、街灯から離れた薄暗い箇所を探す。
「……!?」
「ねえ。どうしたの?」
「いや……」
そして空を見上げながら、それを求め続ける。だが。
「……ねえ」
「……あ〜……ダメかな……?」
「なにが?」
落胆した亮介は、観念して上を指さす。
「なに……?」
つられて見上げる春瑠。
「いや。星がさ。見えないかと思って。」
見上げた夜空には、付近の街灯の光量に遮られて、それほど星は見えない。
「街中ならともかくさ。ここら辺なら灯も少ないから、もしかしたらと思ったんだけど。」
「……どうして、そんなこと?」
空を見上げ続ける春瑠を見ながら、亮介はしばし言葉を探す。
「……ほら。前にアミューズアカシック……『AA』に行った時、プラネタリウム観れなくてがっかりしてたじゃん?だから、もしかしたら星が好きなのかな?って思って……」
自分の見当違いを心配して、言葉が尻すぼみになる。
「…………」
見上げる春瑠は、無言。
自分の判断の採決がなかなか下らず、亮介はいたたまれなくなって、春瑠を直視できなくなり逃げるように空を見上げた。
ぐすっ。
音が聞こえ、亮介は春瑠に視線を戻した。
そこにいた春瑠は、顔を振り仰いだまま、閉じたまぶたから涙をこぼしていた。
嗚咽を漏らしだす春瑠。
「え!? あ、えと、ご、ゴメン!? 余計なこと」
「……違うの……」
うつむいた春瑠は、両手で顔を覆ったまま泣き続ける。
「……見えた、……星、……目、慣れれば、すこし……見える……」
嗚咽混じりに応える春瑠。
「え!?」

「え!? じゃ、えと、なんで、泣いて……?」
春瑠は激しくかぶりを振った。
「亮介、……りょうすけぇ」
濡れた目のままわずかに顔を上げた春瑠は、片手で顔を覆ったまま、右手をこちらに伸ばしてきた。
胸元に届いたその小さな右手は、触れる直前で宙を泳ぎ、逡巡を見せたあと、わずかに戻っていった。
「りょうすけ……うれしい、……けど、わたし、わたし……」
「え!? え、どうした、の?」
肯定的な返事を得られたことで、一部安堵した亮介だったが、目の前の、求める手を半端にかざしながら泣きじゃくる少女の様子に、応える術を知らずただ戸惑うばかり。
「あああ……、ああぁーーーーー!」


◆◆ to be continued.◆◆


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