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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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第13話 お手伝い、してくれますか?

 舞台の開幕を告げるように鐘の音が幾重にも鳴り響く。
 どこからともなく舞い降りたオペラカーテンが左右に割れ広がって消えていった。
 瓦礫の荒野と化した志摩家の敷地を、渦巻く闇の彼方から道化めいた意匠を施された像やゴンドラが無数に行列を成して現れ粛々とみおみときりえの脇を通過していった。
 そして砕かれた空中の芽衣のリングの中から現れたものは、無数の歯車が出鱈目に噛み合って回り続ける奇妙な機械。
 天板と奈落が入れ替わり、回り舞台が宛もなく回転を続けている。
 それは複雑怪奇な舞台装置。
 だが、その舞台で舞うべき役者はひとりだけ。
 全ての歯車を、天から底へ貫く一本の軸の最下端に、逆さまにぶら下がる粗末な案山子(かかし)がゆったりと回転していた。
 嬌声が聴こえる。
 それは案山子の丸い頭に穿たれた、三日月のような釣り上がった口から狂ったように吐き出されているのだ。
 粗末なドレスを着せられて、舞台役者の案山子は喚くように、叫ぶように哄笑い続けていた。



 これなるは「舞台装置」の魔女。その性質は「無力」。


「ひゃっ!? 」
「わっぷ!? 」
 突如、地上を舐めた突風のような圧力にみおみときりえが喫驚する。
 だがそれはみおみの魔法によって瞬時に中和された結果。
 放たれた魔力の真の効果はふたりの周囲で発揮されていた。
 ざっ。と土砂降りの雨が降り注ぐ。
 散乱する瓦礫が宙に浮かび始め、あろうことか暴雨をものともせずに紫色の不気味な炎を噴き出したのだ。
 まるで舞台を囲む篝火のようだ。
 見れば、魔女の──キュゥべえが言うところの「ワルプルギスの夜」の周囲には既に、潰れたタンカーやら列車やらクルーザーやら、果ては屋敷の残骸に至るまでが浮遊していた。
 比較対象と並んだことで、空中にあるその魔女の異常な巨大さが知れた。
 そしていつの間にか。空が、見渡す限りを鈍い灰色の雲が覆い尽くし不穏な渦を描いていた。
 暗雲は、遙か彼方まで覆っている。落雷もあちこちで発生していた。
 吹きすさぶ暴風も豪雨も、みおみの周囲で中和されて二人には直接当たってはいないが、志摩家を中心とするかなりの範囲が大嵐に見舞われているようだ。
 下手をすると、この久那織市を中心とする広域が嵐に襲われているのではないだろうか。
「……な、なによあれ……」
 その大きさも、規模も、自分の知るどの魔女とも桁違いであろうことは今のきりえにもなんとなく分かる。
『だから、「ワルプルギスの夜」だよ』
「そんなこと聞いてんじゃない!」
 いつの間にか足元に来ていたキュゥべえにきりえが怒鳴り返した。
『そんな事よりきりえ。ボクの用事は済んだから、君のお話を聞いてあげられるよ。なんの用かな?』
 だがキュゥべえはきりえの剣幕など意に介さず、ひょこっと小首を傾げてきりえの顔を見上げてきた。
「……あんたって奴は……!? 」
 これほどの異常を為しておきながら飄々たる言い種に、戦慄と共にきりえの頭に血が登った。
 そこではたと思い出したきりえは、遠くで倒れている芽衣の亡骸を振り向いた。
 最後に見た地点からは圧力に吹かれて転がされてはいたが、離れた位置に脱力した姿勢で倒れたままだ。
「……ねえ、みおみ。 私の願いで、芽衣ちゃんを生き返らせて……」
「それを、芽衣ちゃんが喜ぶでしょうか……?」
 間髪入れずに応えたみおみの意見に、きりえは はっと振り返った。
 そうだ。世界への憎しみに染まったままの芽衣を生き返らせても、彼女の深い憎しみを取り除いてあげられるだろうか。
 恐らく、みおみの魔法を知ったなら、今度こそ姿を眩ませてみおみもきりえもいない街で同じことを繰り返すだけだろう。
 きりえが使える願いはひとつだけ。「生き返らせて」「辛い記憶を消す」。二つの願いを行使することは、できない。
「……くっ!? 」
 そうこうしている内に、芽衣のソウルジェムから吹き上がった黒の霞が、その勢いのまま「ワルプルギスの夜」の歯車の中に吸い込まれて消えてしまった。
「ああっ!? 」
 きりえが嘆きの悲鳴を上げる。
 「ワルプルギスの夜」は、他の魔女を喰らうこともするのか。
 やがて最下端に逆さまにぶら下がる案山子の顔を正面として「舞台装置」の魔女の身体が回転し、無数の歯車の山が向きを変えると宙を移動し始めた。
 それに伴って黒雲が激しく渦を巻き、稲妻を撒き散らし、浮かび上がった瓦礫のいくつかが凄まじい勢いで彼方に吹き飛んでいった。
「ぅわああああああ!? 」
 きりえが悲鳴を上げた。
 みおみと、その側にいるきりえには一切の衝撃も伝わってこないが、巨大な質量がうなりを上げて吹き飛んでゆく様はとても恐ろしい光景だった。
 彼方で、その瓦礫がどこかに激突した音だろうか。凄まじい振動と轟音が響いてきてきりえは思わずみおみにしがみついた。
「……っっ!? み、みおみっ!? このままじゃ、街が、みんなが!? 」
『ねえきりえ? 立て込んでいるみたいだけど、ボクが力になってあげられるんじゃないかなあ?』
「うっさい!」
 この期に及んで見え透いた勧誘を嘯くキュゥべえにきりえは怒鳴りつけた。
 みおみはきりえを背後にかばったまま、コンパクトを展開して上空の魔女に向けた。
 その途端、歯車の山が移動を止め空中で静止した。
「……やった!? 」
 ところが、みおみの魔力干渉に気付いたのか、宙に浮かぶスクラップの自動車やら屋敷の瓦礫やらがみおみときりえめがけて襲いかかってきた。
「ひゃああああああ!? 」
 きりえの悲鳴を容易く掻き消す轟音が響いて瓦礫が地上に激突し、粉々に吹き飛んでいった。
 土煙の跡からは、白いヴェールの防護柵に囲まれて無傷の二人の姿が現れた。
「大丈夫ですかきりえちゃん!? 」
「私は大丈夫だけどッ!? 」
 防護柵を境に足元の地面が丸く抉られていた。
 その威力にきりえは恐々とするばかり。
「みおみ、逃げよう!? こんなバカでかい魔女、見たこともないよ!? 」
 未だコンパクトミラーをかざしているみおみの肩をきりえが掴んで叫んだ。
「一人じゃ無理だよ!? 誰かと協力しよう!? 隣町に、強い魔法少女知ってるから!」
「いいえ」
 みおみは首を振った。
「体勢を立て直す前に、街が全部壊れちゃいますよ」
 凄まじい暴風と瓦礫の嵐の中、みおみは「ワルプルギスの夜」から瞳を逸らさずに応えた。
「実はわたし、きりえちゃんを守りながらあの魔女を抑え込むので、もういっぱいなんです」
「え?」
 それは余りにも普通の言い方で、きりえは一瞬なにを言われたのか分からなかった。
「今も、レイカさんの時のように吸引しようとしているんですけど……」
 見れば、みおみと魔女を繋ぐ空間が歪曲し、みおみのコンパクトミラーに吸い込まれている。
 ところが、宙に浮かぶ巨大な魔女は、微動だにしていないのだ。
「……な、なんで!? 」
『「ワルプルギスの夜」の結界は、他の魔女とは質が異なるよ』
 嵐の轟音を越えて、ふたりの脳裏にキュゥべえが朗らかに注釈を告げてきた。
『厳密には「結界」とは違うんだけど、「ワルプルギスの夜」はその強大さ故に、結界に隠れ潜む必要がない。 だけど魔女の魔力の影響は一般に自殺などの人身事故として現出するのは知っているよね』
 正直それどころではないが、きりえは脳裏で滔々と語るキュゥべえの言葉に集中した。
『「ワルプルギスの夜」の魔力はね、その影響の規模も比例して跳ね上がるんだ。他の人間たちには、これらの異常も自然災害だと認識されている。「ワルプルギスの夜」が、異常認識の干渉波を同時に放射しているからなんだ』
「だから、なんなのよ!? 」
『みおみが引き寄せているのは、「ワルプルギスの夜」が放射し続けている干渉波だよ。みおみが吸い込むよりも速く膨大な干渉波が放射されているから、さっきの魔女のようにはいかないと思うな』
「……!? 」
 きりえにはキュゥべえの言っていることの半分も理解できなかったが、要はみおみの魔法が通じないであろうことはなんとなく見当が付いた。
「…………」
 巨大魔女は動かず、みおみも退くことができない。膠着状態である。
 魔法の防護柵の中に入れてあげることもできずに芝生の上で倒れている芽衣の亡骸を見遣り、上空の魔女を見上げ、みおみの背中を見つめた。
「…………!」
 きりえは、決意した。
「ねえ、キュゥべえ」
『なんだい? きりえ』
 キュゥべえはいつもと変わらぬどこか暢気な調子できりえを見上げてきた。
「お願いがあるの。聞いてくれる?」
『魔法少女になってくれるなら。 ボクは君の願いをなんだって叶えてあげられるよ』
 膠着した状況を動かすには、やはりどうしても魔法少女がもうひとり必要だ。
 このままでは、いずれみおみのソウルジェムも消耗して壊れてしまう。
「私、」
『だめ』
 きりえの脳裏で弾けたみおみのテレパシーがはっきりと制止した。
『それはだめ』
『でも、みおみ!? このままじゃジリ貧だよ!? 』
 きりえは魔女を足止めし続けるみおみの背中を振り向いて脳裏で叫んだ。
『二人が助かる為だよ!? 私も魔法少女になるから、一緒に戦おう!? それしかない!』
『だめ』
 だが、みおみは頑なに拒否した。
『わたしには、なんとなく分かるんです。あの大きな魔女は、例えきっとレイカさんの魔法でも倒しきれない。大勢の魔法少女がいればいいとか、強い魔法をぶつけてやるとか、そういうんじゃないんです』
『え……?』
 きりえは思わず身動きを止めた。
『じゃあ、どうするの……?』
『きりえちゃん。聞いてください』
 再び巨大な瓦礫が防護柵に激突して粉々に砕け散って吹き飛んでいった。
 衝撃に身を竦めたきりえは体勢を立て直してみおみのテレパシーに集中した。
『聞いてください。 わたしは、なにがあってもわたしの大事なものを無くしたりはしません』
 みおみは、コンパクトをかざした姿勢のまま真摯に続けた。
『レイカさんも、芽衣ちゃんも、とても残念なことになってしまいましたけど、生き残ったわたしたちは、生き続けていかなくちゃいけないんです』
 瓦礫の嵐は勢いを増し、防護柵に激突する瓦礫の頻度も増えるばかりだ。
『わたしは、もしこれが無事に終わったら、もうたまにしか魔女とは戦いません。わたしには、やる事がありますから。 きりえちゃんも同じです。せっかく取り戻した、大切な家族との新たな生活は始まったばかりなんですから』
『だったら、なおさら!? 』
 後ろ姿のみおみが首を振った。
『二人とも、大事なものを無くさない方法が、あるんです。 ……うまく行くか分かりませんけど……』
 そこでみおみは僅かに言い淀んだ。
『それには、きりえちゃんの協力が必要なんです。 ……きりえちゃん。お手伝い、してくれますか?』
『……!? 』
 それを聞いた瞬間、きりえの胸中に何か暖かいものが湧き上がって広がった気がした。
『なに言ってんの!? 水くさい! なんだってやってやるわよ!』
 その暖かさの理由に気が付いた。
 大切な友達であるみおみが、自分を救ってくれたみおみが、きりえを頼ったのだ。
 みおみに「手伝って」と言われることが、こんなにも嬉しいなんて。
『…………』
 暴風を遮り続けながらも、みおみの背中の気配はとても穏やかなものだった。
『……ありがとうございます。きりえちゃん』
『いいって! それよりどうすんの?早くしないと……』
『それはですね』
 続いて、今度は言葉ではなくイメージでみおみの求める「お手伝い」のプランがきりえの脳裏に流れ込んできた。
 勢い付いて見開かれていたきりえの目つきが、なぜかだんだんと平淡な半目に変わってゆく。
『……それって、なんか意味なくない?』
『そんな事はありませんよ? だって、そういうことですから』
 やや呆れたきりえの溜め息に、みおみはあくまでも朗らかに請け負った。
『しかも、なんかさっき言ってたことと違うし。』
『えー? 手伝ってくれるって言ったじゃないですかー?』
『言ったけど!? 』
 語られたプランに、なんだか瓦礫の激突の轟音も白々しく感じてきた。
『もっかい聞かせて。それって……』
『そういうことです。 だって、そういうことですから』
 きりえのイメージでの確認に、やはりみおみは全く同じ調子で請け負った。
『…………』
『では、よろしくお願いします』
 きりえは半信半疑の様子だったが、それでもゆっくりとキュゥべえを振り向いた。
 胡乱げな眼差しのまま、足元のキュゥべえを見下ろす。
『どうかしたのかい? きりえ』
「……いや」
 それでも何か反芻している様子だったが、きりえは居住まいを正すと身体ごとキュゥべえに向き直った。
 深呼吸をして、それを告げる。
「キュゥべえ! 私、魔法少女になる! 私の願いを叶えて!」




◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

最終話 ずっと一緒なんですから

◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

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テーマ:二次創作 - ジャンル:サブカル

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