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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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第1話 アタシの秘密、知りたいか?

『……「白魔女」?』
『そうさ』
澄み渡る青い空に、ひとかたまりの白い雲がゆったりと流れてゆく。
教室の窓の外の田園風景を、千歳(ちとせ) すずは頬杖をついてぼんやりと見るともなしに眺めながら脳裏に聴こえるキュゥべえの話に相槌を打った。
『なにそれ』
『あらゆるエネルギーを遮断してしまい、魔女を喰らう新たな存在だ』
 幼い声質のわりに流暢でどこか迫力のある声音が説明を続ける。
『白魔女は人間を襲わない。代わりに魔女のみを襲うその異常な存在を、完全に性質が逆なことからボクはそう名付けた。 まあ名称はともかく、これは君たち魔法少女にとっては由々しき事態だと思うんだ。 なにしろ、グリーフシードを取られてしまうんだからね』
『……!? 』
 キュゥべえの解説に、窓の方を見ながらすずは微かに眉をしかめた。
『なにそれ。 今までに前例はないっていうこと?』
『そうさ。 発生した原因も見当がつかない。いつ、どこから来たのかも。 だから、適切な対処法も分からない』
 キュゥべえは、溜め息を吐くかのように間を空けた。
『申し訳ないけれど、遭遇したら、全力で逃げることを勧めるよ。白魔女は、魔力を含むあらゆるエネルギーを遮断してしまう。白魔女に触れられた魔法少女は、全ての魔力と生命活動を一時遮断されて身動きが取れなくなってしまうだろう』
『死ぬ、ってこと?』
『いいや。一時的に喪失状態になるだけで、魔力も生命活動もいずれ復旧する。 ただし、昏倒している間に魔女やほかの魔法少女に見つかったら、おもしろくないことにはなるよね』
『ふうん』
 気のない返事をしてすずは溜め息を──脳裏ではなく肺を通しての溜め息を吐いた。
 その時、すずの右肩をちょんちょんとつつく指先の感触に気付いて振り向いた。左の側頭部にのみ高く結い上げた長い髪が動作につれ揺れる。
 それは隣に座るクラスメートの合図だった。
 すずは時に「起きてんのか」と揶揄される細い目を見開いて隣のクラスメートの指先を見る。
 その意味するところに気付いて自分の机を見下ろすと、片隅に置かれた卵形のランプが点滅していた。
 教卓の方を見れば、数学の教師が黒板の端に大きく書いた数字をポインターで示して教科書を振っている。

 ──ああ。設問に答えろというのか。

 一連の遣り取りを理解したすずは教科書を取り上げて座席からその長身を立ち上げた。
 高い。まるでモデルのようなすらりとした長身の背筋を伸ばして、黒板に指定されたページの問題を確認しながらクラスメートの机の間を歩いてゆく。
 こつこつという自分の足音しか聞こえない、それ以外は一切無音の世界の中で黒板の前にたどり着いたすずは、チョークを取り上げて指定の問題の解答をすらすらと書き上げていった。
 そして事も無げにチョークを戻すと何も言わずに振り向き自分の席へ戻ってゆく。
 数学教師が笑顔で親指と人差し指で丸を作って正解の意を表現し、そして皆に向かって今の問題の解説を始める。
 さぞかし肺活量の高そうな体格の数学教師の口が熱く何かを捲し立てても、クラスメートの口が賞賛の形に動いても、机の間を歩くすずには自分の足音以外なにも聞こえはしない。
 すずの机にだけ設置されたリモコン式の卵形ランプは、その為に置かれたものだ。
 教師も生徒も全て、「千歳 すずは聴覚障害者だ」と思い込んでいる。
 なにせすずは、キュゥべえに「自分が立てる以外の全ての音を聴こえなくしてくれ」と願ったのだから。

 放課後の音楽室では、ピアノの音が流れていた。
 窓から差し込む黄昏の色に染められて、鍵盤を流れるような指の動作で弾くのは、千歳 すず。
 他に誰もいないこの音響に配慮された教室でひとり、すずはピアノを奏でていた。
 それは、いかなる楽曲とも異なる旋律。すず自らが創作した曲だ。
 窓の外の運動部の声など聞こえない。この耳を満たすのは、己の魂が求める心地良いメロディだけ。この為だけにキュゥべえと契約した程の、大事な大事なものだ。
 魔女の事も他人の事もどうでもいい。
 こうしてひとりで自らのアートを奏でることが、すずにとって最大の至福の時なのである。
『ヘタクソな曲だな』
 ところが唐突にその至福の時をぶち壊す、脳裏に響いた声にすずの手が引き攣ったようにぴたりと止まった。それにつれ、すずの世界は再び無音となる。
「……」
 すずは不機嫌さを隠しもせずにそちらの方向を振り向いた。
 テレパシーの発振源はすぐに特定できた。この音楽室の入り口だ。
 そこに、男子に勝るとも劣らないがっしりした体つきをした女子生徒が立っており、それこそ少年のような快活な笑みを浮かべてすずを見ていた。
『よっ。あんたがこの学校の魔法少女だろ?』
 手刀のように片手を振って言う少女に構わず、すずはその少女の肩に載っている白い小動物を睨み付けた。
『……キュゥべえ。あなた……!』
『訊かれたから教えただけさ。すずは別に、構わないんだろう?』
『…………!? 』
 それでも精一杯開いた目に怒りを込めて睨み付けるが、赤い瞳をくりくりさせるキュゥべえの表情は相変わらず知れず、意に介した様子はない。
『まあまあ。そう怒んなよ。アタシもただ挨拶しとこうと思っただけだからさ』
 少女もすずの不機嫌に構わずずかずかと教室に入ってきた。
 他に誰もいないというのにテレパシーを続行しているのは、つまりキュゥべえからすずの身の上をある程度聞いているということなのだろう。
 快活な笑顔には一片の曇りもなく、肉声でないにも関わらず脳裏に響く声は闊達な気質を伺わせる。
 まさに「爽やかなスポーツ少女」といった印象だ。
 そしてそれは、すずの最も嫌いなタイプのひとつでもある。
『……なんの用? 私は魔女には構わないから、好きにすればいいよ』
『挨拶に来ただけだって言ったじゃん』
 警戒心剥き出しでつっけんどんに拒絶したにも関わらず、少女は屈託のない笑顔で普通に応えてきた。
『アタシは浮絵 桂華(うきえ・けいか)。桂華って呼んで。今度この学校に転校してきたんだ。あ、前んトコじゃ「ケイ」っても呼ばれてたな。今日は編入の手続きでさ。クラスのみんなと挨拶すんのはまた今度だけど』
 聞きもしないのに浮絵 桂華はぺらぺらとしゃべり始めた。
 その笑顔と大きな口、そして単に手入れが苦手なのか、放埒なボサボサ髪が夕焼けの陽を照り返してまるで燃え盛るひまわりのようだった。
『前は東京のミッション系の学校にいてさ。意外だろ?こんなナリでさ。いやまあ親の宗教なんざ問わないけどさ、子の宗教も問わないで欲しいんだよね。行儀だの作法だの覚えさせようとしたんだろうけどさ。でもさ、無理なモンってあるじゃん? ン、モー退屈で退屈で』
『……まあ、あなたには無理そうよね』
 すずは取り留めのない無駄話も大嫌いだ。
 怒りを誘って話を終わりにしようとしたのだが、ところが桂華には通じなかったようだ。
『だろ? まあそこ全寮制だったもんで元々勘当同然だったからさアタシ。親父に駄々こねてこっちの学校に来ちまったんだよ。 あ。いまアタシひとり暮らしなんだ。こんど遊びに来いよ。まだなんもねえんだけどさ、一緒に食材買ってさ、一緒にメシ作って食うのも旨えぞ』
『いい加減にして』
 ぴしゃりと。怒気を込めて話を遮った。
『いつまであなたの無駄話を聞かせるつもり? 用が済んだなら出てって頂戴。 魔女なら好きに狩ってくれて構わない。私は邪魔しないから』
 これ以上構っていては、怒りで魔法でもぶつけてしまいそうだ。
 拒絶の意志を示すようにすずはピアノの鍵盤に指を置き直した。
『えー? だってアタシ、まだお前の名前教えてもらってねえぞ?』
『聞 か な かっ た じゃ な い!? 』
 ぐぎゃん!
 立ち上がる勢いで力任せに叩かれたピアノが破砕するような悲鳴を上げた。

『まあ食えよ。アタシのおごりだからさ』
「…………。」
 どうしてこうなったのか。
 通学路から外れたところにあるアーケードのカフェのテーブルに、すずは桂華と差し向かいで腑に落ちない顔で座っていた。
 キュゥべえは「用は済んだから」とどこかへ行ってしまった。
 一方桂華は運ばれてきた巨大なグラスをさっさと持ち上げて山盛りにされたパフェをがつがつと食い始めた。
 ちなみにすずの目の前にあるのも、桂華の持つパフェと同じものだ。
 でかい。
 すずは、テーブルの傍らに立てかけてあるメニューを横目で確認した。
 「およそ二人前の超特盛りパフェ。ご家族・お友達で御一緒にどうぞ。」と書いてあった。
『……あなた、バカなの?』
 溜め息混じりにテレパシーでぼやくが、桂華の手と口は止まらない。
『テレパシーって便利だよな。メシ食いながらでも会話できるしよ』
 頬をぱんぱんに膨らませて幸せそうに応えた。
『二人前なんて、ひとりで食べきれるわけないじゃない』
 呆れたように吐き捨てたすずのテレパシーに、ようやく桂華はきょとんとした顔で手を止めた。
『ああ。わりいわりい。アタシいつもこんくらい普通だからさ。ついいつものノリで注文しちまった。 食える分だけ食って、あとは残してくれよ。アタシが食べるから』
 ニカッと快活に笑んだ桂華は再び巨大グラスに顔を突っ込んだ。
「……………………」
 こいつバカだ。
 すずは溜め息と共にそう断定した。
『……だいたい、奢るって言ったって、中学生の身分じゃあ結局親からのお小遣いじゃないの?』
『いんや?アタシ東京にいた時にバイトみたいなモンやっててさ』
 とりあえず常識的な見地から指摘してみたが、桂華はアイスクリームを咀嚼しながらごく普通の調子で応えてきた。
『中学生のアルバイトは禁止だって……』
『違うって。大学のねえちゃんの手伝いでお駄賃がもらえんだよ。大学の女子プロレスサークルの人たちと仲良しでさ』
『……お姉さんがいるの?』
『ああ違うよ』
 口をいっぱいに膨らませた桂華がスプーンを持つ手を左右に振った。
『そのサークルの人たちのこと。年上の仲良しだから、みんなねえちゃんなんだよ』
 にこにこと応える桂華の話に聞き入っていたすずは、いつの間にか会話の流れに飲み込まれていることに気付いて はっとした。
『そんなことはどうでもいいのよ。 そんなに健啖なら、これもあげるわ』
 眉を釣り上げ直して目の前のグラスを押し出してやると、桂華はまたきょとんと見返してきた。
『……あれ? 甘いの嫌いか?』
『そうじゃなくて!? なんで私がこんな事に付き合わなくちゃいけないのよ!? 』
『えー? だって、すずっちったらアタシんチ来ねえっていうからさあ』
「いつそんな話になったのよッ!? 」
 思わず肉声で怒鳴ってしまった。
 周囲から見れば、黙って座っていた客が脈絡なく大声を出したようにしか見えなかっただろう。
 取り囲む怪訝な目線に耐えきれなくなったすずは、誤魔化しを求めて目の前の特大パフェにスプーンを突き刺して無理矢理食べ始めた。
『なんだ。甘いの食えんじゃん』
『……うるさい。それと「すずっち」ってなに!? 』
 片や睨み付け、片やにこにこと笑顔で黙々とパフェを貪る二人は食べながらテレパシーを続行していた。
『あだ名。 千歳すず千歳すずっ千歳すずっちとせすずっち。いーだろ?』
『よくない』
『なんだよー。機嫌直せよー。甘いの食うと元気になんだぞー?』
『うるさい』
 結局、すずは三分の一も食べられず、残りは自分の分を余裕で平らげた桂華の腹に収められた。

『もう一人いた魔法少女、死んだんだって? キュゥべえから聞いたけど』
 カフェからの帰り道。
 肩越しに鞄をぶら提げながら歩く桂華がすずに問いかけた。
『ニュースで観たぜ。前にここでデカい嵐があったらしいじゃん?』
『ええ』
 素っ気なく応えながら、すずはその魔法少女のことを思い出していた。
 彼女とは、素性が知れるや互いに不可侵の約束をして、それっきり話もしなかった。
 だから、具体的になにがあったのかも聞いていない。
『大きなお屋敷ごと潰されてそれっきり。死体も見つかってないから、多分魔女に喰われたんじゃないかしら』
『噂は聞いてるぜ。「ワルプルギスの夜」っていう凄いのが来たんだろ?』
 すずは、そんな噂は知らない。魔女退治に興味がない為、コネクションが皆無だからだ。
『相討ちだったらしいじゃんか。魔法少女が二人掛かりでどうにかやっつけたって聞いたぜ?』
『真偽は知らない。災厄が消えて、志摩 レイカがいなくなった。それだけ』
『まあ、魔法少女の宿命だもんなあ。そういうこともあるよなあ』
 淡々と事実のみを告げたすずの横で、桂華は神妙な顔でうなずいて空を見上げた。
 広大な河川をまたぐ橋の途中。
 橋を支える鉄骨のアーチを見上げていた桂華がやおら黙り込み前を、横を向いた。
『……どうしたの?』
『なあ。この辺は自殺のメッカかなんかか?』
 つい訊ねたすずに、桂華は気配を鋭くして周囲の様子を伺っているようだった。
『……さあ? そんな、外のことなんてよく知らないもの』
『ああ。魔女退治やってねえと、そういうのって鈍るモンかねえ?』
 その台詞でようやくすずにも思い当たった。
 あれほど奔放な言動をしていた桂華が目つきを鋭くしている理由。
 不本意ではあるが、すずも共に警戒して周囲を見回していると、夕焼けに染まる朱と黒の光景の中にサイケデリックな模様が滲むようにして現れ、たちまち景色を、世界を、常識を全て異なるものに塗り変えてしまった。
「ッ!? 」
 突如重力の方向が変わり、すずと桂華はそろって喫驚しながらバランスを崩した。
 頭からつんのめるように転倒し、だがいち早く体勢を取り戻した桂華に腕を引かれて起きあがったすずは、桂華と一緒に橋の欄干に「横に」立っていた。
 今まで歩いていた橋の路面が真横で巨大な壁のようにそびえ立っている。
 重力が、九十度傾いたのだ。
『変身しろ!』
 輝きに包まれた桂華の声に、すずも咄嗟に魔法少女に変身した。
 久那織中学校の制服に代わってすずの長身を包んだのは、目の覚めるような鮮やかなシアンに彩られたマーチングバンドのユニフォーム。白のミニスカートから伸びた脚を長いブーツが覆い、頭頂にベレー帽を添え、さながら宮廷楽士のように凛とした立ち姿であった。
 隣の輝きから飛び出した桂華は、まるでバイクでも乗りこなすかのような漆黒のツナギを身に纏っていた。大きく開かれた胸元からは、中学生にしては非常に大きく成長した膨らみが深い谷間を形成していた。
 その胸の中央に、黄色に輝く鋭角のソウルジェムが張り付いている。
 スーツの所々に鋭角なラインを刻むクロームイエローがさながら稲妻のようで非常に攻撃的な印象を与える。
 そして、まるでライオンのたてがみのように広がった髪は、なぜか頭頂のみを白いリボンで一房だけ括られていた。
『すずっちは、あんま戦いはやんねえんだよな? 自分のこと、ちゃんと守っとけよ!』
『……!』
 突然の事に面食らってはいたが、それは言われるまでもない。
 すずは片手を振って己の武器を召還した。
 すずの手振りに従って現れたのは、無数の白と黒の小さな四角い棒だった。
 綺麗な艶のある白い棒と、それよりは細く短い黒い棒。
 白と黒の数の差はおよそ二:一。
 無数のそれらがすずの周囲を取り囲み、さながらハリネズミのように全包囲を向いて空中に静止した。
 桂華も両手を振って武器を取り出し跳躍していった。
 その手に現れたのは、メリケンサックと拳銃を掛け合わせたかのような凶悪な円環型の凶器だった。
 それを両手で握り込んだ桂華が跳躍した先──今や「上」となった反対側の歩道には、橋を支える鉄骨のアーチだったものが生き物のように歪んで変形してこちらを見下ろしていたのだ。
 それはまるで、にやけたチェシャ猫の口元めいた嘲笑する「口」に見えた。

 これなるは「栄光」の魔女。その性質は「高慢」。

『ーーーーーーッ!』
 きゃらきゃらと嬌声をあげながら、壁の上から無数の使い魔が落ちてきた。
 それらは言わば「てるてるぼうず」のような姿をしており、やはり魔女とそっくりの三日月型にぎざぎざ線を入れた口の端を釣り上げて狂ったように嘲笑っていた。
 そいつらが、己の首に結び付けられた紐を引きずってばらばらと落ちてくる。
「おっと!? 」
「!? 」
 跳躍中の桂華は、そのメリケンサックで使い魔を右に左に殴り散らし、すずに迫った使い魔は、周囲を取り囲む白と黒の棒に激突して弾き飛ばされていった。
 狙いを逸れた使い魔どもは、そのまますずが立つ欄干を越えて遙か「下」の地平へと落下していったが、伸びきった紐がぴんと伸張するなり落下と同じスピードで次々と跳ね上がってきた。
「ひゃ!? 」
 想定外の下方からの障壁への激突に、すずは思わず声をもらした。
 すずの周囲に展開されている無数の白と黒の棒は自動で障害を阻み、時に数本が束になって攻撃を防ぐ拡縮自在、剛柔併せ持った万能防護柵なのだ。特に守りに徹したすずの防御を打ち破ることは決して容易なことではない。
 ただ、魔女狩りに消極的なすずは戦闘慣れしておらず、不意の衝撃にびっくりしただけのこと。
 それよりも心配なのは桂華のことだ。
 軌道変更のできない跳躍中にあって攻撃を受けた桂華がいったいどうなったのか。
 重力の方向を横向きに変えられた今、魔女と使い魔はともかく、自分たちにはこの橋の欄干しか足場がないのだ。
 ほんのわずかに足を踏み外せば、地平の彼方へ「真っ逆様」だ。
 使い魔の妨害を打ち払い、どこかへ弾かれたのかと見上げたすずは、その驚愕の光景に思わず細い目を見開いた。
 桂華の姿は、使い魔を打ち払った空中に留まっており、あろうことか全身から黄色のオーラをもの凄い勢いで噴き出して浮遊していたのだ。それどころか、その放埒な髪も黄金色に輝いて激しく逆立っている。
 と見た次の瞬間には桂華の姿はまるで流星のように鋭く飛翔して、紐にぶら下がる無数の使い魔どもを貫き、三日月型の鉄骨の姿をした魔女に激突した。
「……………………は?」
 反動で弾かれた桂華はすぐに軌道を変え、再び魔女に突撃してメリケンサックを握る拳を叩き込んだ。
 それは一度に留まらず、一撃を加えては通過して、舞い戻ってはまた殴りつけて飛び去ってゆく。
 黄色い流星が三日月型の鉄骨に激突する度に鉄骨はあちらがひしゃげ、こちらがへし折れ、形を急角度にへこませてゆく。
「……………………」
 その様を、すずは呆然と見上げていた。
 その威力は凄まじいと思う。確かに桂華は強いのだろう。
 だがこれは、むしろ魔法少女ではなく少年マンガのヒーローではないだろうか?
 挙げ句、空中で間合いを広げた桂華は左右の拳を横に付き合わせて両手に握るメリケンサックと同化した拳銃の銃口をそろえると、一声高く叫んでその力を解放した。
 くらえ、と言ったように見えた次の瞬間には、桂華の突き出した両拳の武器の先から列車ほどに巨大なビームが迸り出て、べこべこにへこんだ魔女と使い魔どもをまとめて巻き込み、焼き尽くしてしまったのだ。
「……………………」
 すずには、言葉もない。
 オーラを纏って飛び回り、空中で格闘戦を繰り広げ、とどめに大きな怪光線を発射する。
 いや、自分を始めとする「魔法少女」も自分でも大概だとは思うが、それにしても桂華はいったいナニと契約してしまったのだろうかと疑わざるを得ない。
『ケガぁなかったか!? 』
 そんなすずの目の前に、スーパーな感じに髪を逆立てた桂華が着地してきた。
 オーラの解放を止めて乱れた髪を撫でながら橋の欄干の格子を慎重に踏んで歩いてくる。
「…………あ…………いや…………」
 今の桂華の活躍に、なんと言えばいいのか。なぜかすずの思考はなかなか適切な対応を編み出してくれない。
 そうこうしている内に周囲のサイケデリックな光景が揺らめくようにして薄れ、やがて消えてしまった。
「てっ!? 」
「あいた!? 」
 同時に桂華とすずが同時に橋の歩道の路面に真横から激突した。
 魔女の結界の消滅と共に、曲げられていた重力の向きが元に戻ったのだ。
 すっかり気を取られていたすずと、何も考えていなかった桂華はおかげで一緒に橋の手すりから転倒してしまった。
 打ちつけた鼻やひざを押さえながら苦悶の表情で起き上がったすずは、同様に顔をしかめた桂華と見合わせると、思わず吹き出してしまった。
 ふたり同時に。
『……っはっはっは! 変な魔女だったよなあ!最後に置き土産残していきやがるし』
 口を動かしながら同時にテレパシーでぼやいた桂華に、すずも涙を浮かべながら応えた。
『あなただって、ひとのこと言えないよ!? なにあの魔法!? 直球過ぎるし、無茶苦茶だよ!? 』
 路上でうずくまって、しばらく向かい合って笑っていたが、やがて変身を解除して元の姿に戻った桂華が片手に取り出したグリーフシードを、ぽいっとすずに投げ渡してきた。
『……え?』
 思わず両手に受け取ったが、すずには意味が分からない。
 今の魔女を見つけたのも、倒したのも桂華なのに。
『やるよ。 今のアタシにはいらないんだ。 むしろ、今日はアタシに付き合わせたせいですずっちに魔法使わせちゃったし』
『……え?』
 手元のグリーフシードと、苦笑する桂華の顔を代わるがわる見つめてすずは間抜けに繰り返した。
『……わ、私はいいよ別に。大して消耗してないから。 むしろあなたこそ使ったほうがいい。あんなに無茶苦茶な魔法使って……つかっ、て、っぷっ……!? 』
 あまりにも無体でマンガのような桂華の魔法を思い出し再び笑いがこみ上げるが、あれほどの派手な戦闘を行使した意味が分からない訳ではない。
 いったいどんな願いで契約したのかは知らないが、意味不明なオーラを放射し、自由自在に飛翔して、問答無用な攻撃力を発揮すれば、ソウルジェムは否応なしに消耗するはずだ。
 もう少しスマートな魔法の使い方があるだろうが、今はなんとも桂華らしいと思わざるを得ない。すずはそう思っていた。
 ところが桂華は差し出されたグリーフシードには見向きもせず、あぐらをかいたまま目を逸らして指先で頬を掻いていた。
『……いやあ、まあなんつうか…… ああ!めんどくせえ!』
 懊悩の途中で突如勝手にキレて立ち上がった桂華は、未だ座り込んだままのすずの目の前に片手を突き出してきた。
『本当は、時期を見て相談するつもりだったんだけど、いいや。 ……見てみ』
 言って開かれた桂華の掌には、クロームイエローに輝く卵形の宝玉、桂華のソウルジェムが載っていた。
 なぜか、白いリボンが頂点の突起に結びつけられている。
「…………え?」
 それを見たすずは、それの意味するところに気付いたすずは喫驚して言葉を失った。
 なぜリボンがついているのかは知らない。
 だがそのソウルジェムは、あれほどの不効率で派手な魔法を行使したにも関わらず、わずかの濁りも見当たらず、澄んだ輝きを湛えていたのだ。
「…………なん、で……」
 美しいクロームイエローの輝きを放つソウルジェムを掲げながら、すずを見下ろす桂華の顔は、初めて見る真摯な表情を浮かべて真っ直ぐにすずの瞳を見つめていた。
『……アタシの秘密、知りたいか?』




◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

「とりあえずこいつは任せろ!」
「な、なんなのよあれ?」

第2話 なんてデタラメな

◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ 

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テーマ:二次創作 - ジャンル:サブカル

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