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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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ディレイドマスカーカレイド track.9 アギトの世界

 ちりんちりんん……。
 間の抜けたベルを鳴らしながら、郵便配達の自転車が荷車を牽いてのんびりと道を辿る。
 ペダルを漕ぐ配達員は小柄な女性、神楽見 瞳子。
 だぶだぶの制服に身を包み、朗らかな笑顔で家並を抜けてゆく。
「〜♪」
 鼻歌までこぼれ出す程の和みぶり。
 ぎいこ、ぎいことペダルのきしみが長閑な鼻歌に音色を添えた。
「〜あれ?」
 途中、瞳子は鼻歌をやめ小首をかしげた。
 どういう訳か、突然自転車のペダルが重くなったのだ。
 上り坂に入ったわけでもないのに。
「ん〜。おもい〜」
 それほど困った様子もない顔で力を込める。
「あれえ〜。なんでえ〜」
 一生懸命ペダルを漕ぐ。
 だが、自転車は一向に軽くならない。
「瞳子」
 そこに、後ろから透の声がかかった。
「な〜に〜?」
 眉をVの字にしてひたすら前を睨み付け、ペダルを漕ぎ続けながら瞳子は返事をした。
「事情を説明してくれないか?」
「ん〜。あとでねえ〜」
 閑静な住宅街の中を、配達物用コンテナに後ろ向きで腰掛けた透を乗せたまま、瞳子が懸命に漕ぐ自転車がゆっくりと通り抜けて行った。



「……しやがってさあ。マジありえねえっつうか」
「ハハハばっかじゃね?」
 ラフな格好の若者が二人、タバコをふかしながら白昼の街中を談笑しつつ歩いてゆく。
「でよ、俺そんとき」
 言いながら、若者の片方がタバコを放り捨てた。
 火が点いたまま、半ば以上残っているというのに。
「はははは……」
 そのまま歩み去る若者たち。
 ころころと転がる捨てられたタバコの手前に、その時何者かが立ち止まった。
 つま先にぶつかって止まったタバコを見下ろした男は、ゆっくりと顔を上げ、去ってゆく若者たちを見つめた。
 放埒な髪型に無精髭。がっちりした体つきこそ若々しいが、そんな無頓着なナリのせいで実年齢よりも老けて見える。
 その男は足下のタバコと彼方の若者らを交互に見遣ると、やおらしゃがみ込んでそのタバコをつまみ上げた。
「……」
 男は、煙をくゆらすタバコを見つめ、改めて見えなくなった若者らの去った先を眺めると。
 すぱすぱとタバコを吸い始めた。
「っぷはー!っくぅー! 神のボーナース!」
 胸いっぱいに吸い込んだ男は煙と共に歓喜を叫んだ。
「あーあーもったいねえコトするヤツもいたもんだぁ。ありがてぇありがてぇ」
 ふかー、と鼻からも煙を吐き出してへらへらと笑う。
「おっ?」
 だらしない姿勢でしゃがんでいた男は、目線が低くなったことで拓けた視界、すなわち道路の反対側の自動販売機の下に落ちていた百円硬貨を発見した。
「らっきー!」
 せかせかと道路を横切り自動販売機の根元に四つん這いで張り付くと、下の隙間に手を突っ込んで硬貨を取ろうとする。
「このっ、くぬっ」
 だが、わずかに奥まった所にある硬貨に、男の手は届かず、指先は空を掻くのみ。
「こンのぉ〜……」
 男は歯を食いしばって懸命に手を押し込むも、どうしても届かない。
「こうなったら」
 やがて男は暗闇の奥の硬貨に集中すると。
 その力を解放した。
「来いっ!」
 気合いの声と同時、ひゅっ、と百円硬貨が浮き上がり男の手に収まった。
「おっしゃー!神のボーナース!」
 右手にタバコを、左手に百円硬貨をつまみ上げ、男は満面の笑顔で絶叫した。
「こ・ん・の、」
 そこへ、押し殺した言葉とともにカツカツと響く足音が男に迫り。
「バカたれがーーっ!」
 渾身の横薙ぎの蹴りが万歳する男を脇腹あたりから真っ二つにへし折った。
「ぶげふうっ!?」
 およそ人類のどこを押しても出そうにない音を吐いて男はおもちゃかゴム鞠のように跳ね飛ばされてゆく。
「あしかわ、しょういちーーっ!」
 かッ、とヒールを叩きつけ、たった今大男を蹴り飛ばした女性警察官、八代 淘子(やしろ・とうこ)が男の名を呼び付けた。
「あんた、ナニをやってんのナニを!」
「ぐ、うぐぐ……」
 先ほどからの奇行を咎めているのだろうが、その男、芦河 翔一(あしかわ・しょういち)は今、生死の境をさまよっていて返事どころではなかった。
 有り体に言って「死んだフリ」に移行していた。
「あら。タバコが火ぃ点いたまま落っこちてるわね」
 鋭角の双眸で眇にそれを見下ろした八代 淘子は、翔一に歩み寄るとどかっ、と突き刺さる勢いで踏みつけた。
「んげっ!?」
「タバコの不始末なんて、いったいどこのダメ人間の仕業かしら」
「いだだだだだだ!?」
 ぐりぐりとヒールをねじ込まれ、苦悶の声を上げて仕方なく蘇生する翔一。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!?」
「まったく。人類守護の急先鋒が、お願いだから真人間な生活態度を心掛けてちょうだい!っていつもいつも言ってるでしょ!」
「おう。分かってんだけどよ」
むっくりと起きあがった翔一は、服の埃を打ち払いながらぼやいた。
「ホラ。士たちに会ってきちんと覚醒するまで、社会と隔絶してた生活してたじゃんか」
 先ほど拾った百円硬貨を放り上げてキャッチする。
「クセだよクセ。な?」
「な?じゃありませんっ!」
 炸裂した怒号に、圧されたように一歩退いてしまう。
「もう。今だったらもうそんなことする必要なんかないでしょう? いくらなんでも私、悲しくて泣けてくるわよ」
 目頭を押さえて頭を振る淘子に、歩み寄った翔一はぽん、と肩に手を載せた。
「まあまあ。こんくらいで泣くんじゃねえよ。アレだぜ?俺に言わせりゃ「生きてるだけでもオイシイ」ってもんだ!」
 からからと笑う翔一の目の前に、うつむいていた淘子の顔が起き上がってきた。
 ガラス玉のような無機質で冷たい双眸で。
「……それは一生懸命頑張って社会生活を営んで生きている者だけが言っていい台詞だぁーッ!」
「ぶぐはああっ!?」
 淘子の渾身のアッパーが、翔一の身体を高々と舞い上げた。

「ホラ!とっとと行くわよ?」
 もはやずだ袋にしか見えない芦河 翔一だったものを片手でずるずると引きずって八代 淘子はその場から立ち去ってゆく。
「なんです?あれ」
「この世界の守護者、仮面ライダーだ」
 そこで並んで眺めていた瞳子と透が、お互いどうでも良さそうに呟いた。

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テーマ:仮面ライダー - ジャンル:サブカル

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