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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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track.44 ファイズの世界

「デジタルカメラ」や「デジカメ」と名の付くものは知っているけれど、じゃあ「デジタルじゃないカメラ」がなんなのかを僕は良く知らない。
「デジタル」の対義語として「アナログ」という言葉が存在することは、テレビ放送形式が変更になると毎日のようにテレビCMで言われるようになって初めて知ったようなものだ。
その「デジタルじゃないカメラ」のことを教えてくれたのは、彼女だった。
写真画質のことなんて、僕にはよく分からない。「何万画素」なんて謳われたって、写真なんてみんな同じようにしか見えなかった。
けれど、彼女が撮る写真は違った。
どこがどう、とは巧く言えないけど、デジカメで撮るのよりも「僕が良い」と思った見え方に近い写り方をする。
彼女は「この風合いが好きなんだ」と屈託なく笑う。
だから僕も、そんな写し方ができるこの「デジタルじゃないカメラ」が好きだ。
そして彼女はこのカメラで撮った写真を集めて写真集を作るのが夢だと言う。
是非とも見てみたいと思った。
だから、彼女を、彼女の夢を守りたいと、そう、思ったんだ。


「はいこれ!」
「うん。」
少女が自らが構えたポラロイドカメラの下部スリットから吐き出されたインスタントフィルムを引き抜き、元気良く眼前に突き出された真っ黒のそれを尾上 巧《おがみ・たくみ》はいつものように受け取った。
「あ~!? だから、振っちゃダメだって!」
「ああ、ゴメン。つい。」
その紙をぱたぱた振った手首を掴まれ、慌てて平謝りする巧。
「振り回したら印画紙の中の薬剤が遠心力であちこち行って、画が悲惨な出来になるんだから。って前にも言ったじゃん!?」
「ご、ごめん……」
「ほら。おとなしく座って待とう?」
「うん。」
少女に促されるままに巧は学園の中庭のベンチに一緒に腰を下ろした。
「ほら。最初に撮ったやつの画が出てきた。」
少女が取り出した一枚のインスタントフィルムの、真っ黒だった表面にじんわりと画が浮かび上がってきた。
カメラのことは良く分からないが、巧はこの瞬間は好きだった。まるで宝箱を開ける瞬間のような、ちょっとしたワクワクを感じるのだ。
「うん。綺麗に撮れてる。」
「でしょ? ほら、こっちも」
うなずく少女が取り出すインスタントフィルムにも次々と画が浮かび上がってきた。
独特の厚みを持つ紙の上、一方だけが広い白縁の枠の中に描かれる理想郷。
そこに、巧の大好きな世界があった。
「……ああ。やっぱイイなぁ。」
「ふふっ。」
巧の恍惚の溜め息に少女が屈託なく笑う。
彼女と同じ世界を共有している。
それが巧にはたまらなく嬉しかった。
この学園に在る自分の立場を、一時忘れさせてくれるほどに。

ここは、校名と同じ名の巨大企業が出資して設立された私立学園「スマートブレインハイスクール」。
大勢の学生が各所にごった返す昼休みの、絶好の憩いの場であるはずのこの中庭に、今は彼ら二人しかいない理由を二人とも知っている。
巧が人外の者、「オルフェノク」だからだ。
オルフェノクとは、元は人間でありながら、一度死んでのち異形の姿を得て蘇り、人を襲い殺すか仲間に変えてしまうという社会を脅かす存在。
だから、この学園の者は誰も巧を恐れて近寄ってこない。
唯一、巧を真に理解するこの少女、友田 由里《ともだ・ゆり》以外は。
けれども二人は気にしない。
巧が守りたいと願うのは由里と、由里の世界たるこの学園生活であり、それはすなわち結果的に学園のみんなを守ることにも繋がるため誰からも文句は出ない。
だが、巧の正体がみんなにばれたあの日から、二名ほど巧への態度を変化させた者がいた。


◆◆

「尾上!おまえオルフェノクだったんだろ!?」
学園の廊下で、友達だった者から物を投げつけられた。何かのプラスチック容器が巧の胸に当たって床に落ちた。
「出て行けよ! 俺らまで怪物に変える気か?」
「あっち行けよ!死にたくねえんだよ!」
「ヒトの皮かぶって人間に成りすましたつもり?」
一人の罵倒を皮切りに、周りの者全てが巧に罵声を浴びせる。ペンケースが、雑巾が、ほうきが、文房具が、そこらにあるものが次々と投げ込まれる。
「やめて! みんな、やめてよ!」
悄然とうなだれ、されるがまま立ち尽くす巧の前に由里が立ちはだかるが、投げつけられる物は構わず四方八方から飛んでくる。
当然、割って入った由里にも投げつけられたものが飛んできた。
だがそれは、自分に物がぶつかるのも構わずに回り込んだ巧の手によって宙で掴み止められた。
「っ!? 」
「……由里ちゃん。危ないから。下がってて。」
「でも!?」
寂しげに薄く微笑む巧に、由里が悲壮な顔で振り向く。
『そこまでにしたまえ。生徒諸君。』
そこに、通りの良い声が学園構内に響き渡った。校内放送用のスピーカーからだ。
『冷静になりたまえ。彼は、かの四人のオルフェノクの暴虐から学園を守ったのだ。感謝こそすれ、罵るなどとんでもないことだ。騒いでいる諸君らのやりようはまるで、生徒に襲いかかった かの四人のようではないか?皆、己を見返してみるがいい。』
その冷徹な声に、暴挙に及んでいた生徒たちが辺りを見上げ身動きをやめる。
『落ち着いて考えてみることだ。現在、社会問題となっている「オルフェノク問題」だが、その危険性は「荒い息を吐いて刃物を握ってこちらを見つめている子供」とそう大差ない。それにだ。君らの隣の友がオルフェノクでないと、一体誰が証明してくれる?』
その言葉に、隣の者を見ては互いに僅かに距離を開ける者もいる。
『今、友に疑いを持った者。所詮、人間関係などその程度のもの。 別に悪いと言っている訳ではない。「ヒトを信じる」とは「そのヒトを信じる自分を信じる」ということだ。自分は友人にとっての友人たりえるか? 尾上 巧は自分の友にそう思っていることだろう。』
巧は、おずおずと顔をあげた。
「その友の友の友たるこの生徒会長・草壁 雅人は、尾上 巧を我らの仲間として歓迎する。」
スピーカーの声と同じ肉声が、そこの曲がり角から同時に現れた。
白隻の怜悧な容貌の少年。この学園の生徒会長・|草壁 雅人《くさかべ・まさと》その人だ。
携帯電話を耳に当てている。原理は分からないが、放送機材に直結させマイクにしているのだろう。
「生徒会の決定に不服のある生徒は、所属から外れるなり好きにするがいい。」
フラットな表情のまま遠回しに学園を辞めてしまえ、とまでその生徒会長は言ってのけた。
「だが、良く考えることだ。少なくともこの学園にいる内は、ファイズの守護に与れるということをな。」
巧の傍らまでやって来た生徒会長・草壁 雅人は、この場で肉声の届く範囲に、構内放送の届く全域に、丁寧に区切るように言い切った。
特にこの場にいる生徒たちに向けられるその冷徹な眼差しに当てられた者は、それ以上反論することもなく、目を逸らし、おとなしく引き下がってゆく。やがてここには巧と由里と草壁以外誰もいなくなった。
「ふむ。まさしく「被害者を名乗る加害者の群」だな。」
「あの、生徒会長、どうして……」
携帯電話をたたんでぼやく草壁に、巧はおずおずと問いかけた。
今のこの事態に至るまで、全く面識のなかった人間だ。
それが、どうしてこんな、場合によっては生徒全員を敵に回しかねないことをしたのか。
「さすがに見るに耐えなかったのでな。大勢でよってたかって一人を一方的に糾弾するなど、生徒会長としては看過できない。」
「そうじゃなくて!?」
冷静な顔で当たり前のように言う草壁に、巧は慌てて言い募った。
「だって、僕はオルフェノクだ! ……非難されても、仕方がない……」
「君の友人だったかな?あの事件の日、バイクに乗ってやって来た転校生が言っていただろう。「人間だのオルフェノクだの、下らないことで括るんじゃない」、と。 少なくとも君はその娘を大事にしている。そして現在まで無事に生存している。ならば別に問題はない。」
あの時、聞こえる場所にいたのだろう、士の言葉を引用した草壁は、肩をすくめて続けた。
「それに、これは私見だが、私は現在のこのような浅ましい人間社会というものに希望を見出せないでいたのだ。そんな私が唯一、君という存在に希望を見出した。」
たたんだ携帯電話を揺らしてこちらを指し示し言う草壁。
「いったいヒトとはなんなのか。「オルフェノクが絶対悪とは限らない」という命題を証明するためには、君が一人、存在していれば充分だ。 何かあったら、いつでも訪ねてきてくれていい。」
言って、草壁は巧に背を向け歩き出した。
「私を信用するかどうかは、君に任せる。信用の根拠は、君が隣の娘を信用する根拠とそう変わらないと思うが。」

◆◆

「……草壁先輩は、僕がここにいていいって言ってくれた。 でも、僕は、本当にここにいていいのかな。」
写真を持つ手を膝に落とし、中庭のベンチで巧はぽつりと呟いた。
「それは、巧が決めることでしょ? 巧の道だもん。」
隣で、由里があっけらかんと言った。
「それに、私の夢を守ってくれるんじゃなかったの? 少なくとも、私はこの学園を卒業するつもりでいるんだけど。 だったら、巧も卒業までちゃんといないと、守りたいものが守れないでしょ。」
「あ。」
すらすらと、淀みなく考えている事の道筋を立てる由里の言葉に、巧は目からウロコを落とした。
「会長は、巧がしたいことの為に、したいようにしていいって言ったんだよ? 自分のしたいこと、忘れてないでしょうね。」
「はい!分かってます!」
突きつけられた指先に慌てて応える。
「まあ、みんながみんな仲良くしてくんないのは残念だけど、みんなが敵に回ったわけでもないし。巧がこの学園に居座る分にはしょうがないんじゃない?持ちつ持たれつ、みたいな。」
「……ああ、うん、まあ。」
頬を掻いて曖昧に相槌を打つ巧。
巧が心配していることは、そこではなくて。
(でも、僕のせいで、ほかにいたはずの友達をなくした由里ちゃんは、本当にそれでいいの……?)
「私のことはいいのよ!」
「い!?」
巧はぎょっとした。まさか思考を読まれたのか?そんなこと、あるはずないのに。
「……私のこと心配して返事が曖昧になったんでしょ。巧の行動原理を知ってんだから、それくらいはお見通しよ。」
恐れ入った。確かに巧の行動の根幹は「由里を守る」ということである。
「私はいいの!むしろ夢を捨てて巧に石投げるなんてことのほうが有り得ないよ! それに、みんないずれ分かってくれるかもしんないし、分かってくんなくても、私の夢に予定の変更はないから!」
言ってにっこり微笑む由里を、巧は眩しそうに見つめた。
(ああ。やっぱり由里ちゃんは凄いな。)
巧自身、「夢」というものにあまりピンとこないまま現在に至っている。
自分の将来のことなんて、オルフェノクとなったあの時から考えることを忘れてしまった。
ただ、「夢」を大事にする人の気持ちに眩しい程の輝きを感じている。
それを大切にしたいと思った。守りたいと思った。
きっと、そうすることが、自分の「夢」みたいなものだろうとも思ったのだ。

そこに、誰も訪れるはずもないと思われていたこの中庭に、一人の長身の男がふらりと現れたのに気付いた。
その者が学生では有り得ないことにもすぐに気付いた。男は制服も着用しておらず、そもそも十代には見えない。
その男は真っ直ぐに巧を見据え一直線にすたすたと歩いてくる。
「巧!? 」
「……!?」
関係者以外でここに立ち入り、かつ巧に用のありそうな者といったら一種類しかいない。
巧は緊張しつつも、ベンチの下のトランクケースに手を伸ばすべく身を屈めた。
「おいお前。ファ」
「っだりゃああああああああああ!」
イズだな、という男の台詞は、二人の座るベンチの背後の植え込みから飛び出した小柄な女子生徒の華麗なドロップキックによって叩き潰された。
巧も由里も、目を丸くしていた。
二人の頭上を飛び越えたその少女は、スカートが翻るのにも構わずまるで男の顔面に横から着地するかのように揃えた靴底を叩き込んでいたのだ。
いったいどのようにバランスを取っているのか判然としないが、その姿勢のまま数秒が過ぎ。
「瞳子。そこをどけ。俺はそいつに用事がある。」
「ぃやかましいっ!?」
顔を踏まれたまましゃべる男の顔面に反動を付け(恐るべきことに男はその瞬間も小揺るぎもしなかった)、着地したその少女・神楽見 瞳子は男に怒鳴りつけるとその腕を取ってぐいぐい引っ張っていった。
「ほら!見て分かんないの?いま絶賛取り込み中だからお邪魔虫は退散退散!」
「む。待て」
「ささ。どーぞどーぞお気になさらずどーか続きを。 ……ほら!こっち!」
こちらへ掌を差し出してへらへらとした笑顔で促した瞳子は、一転表情を翻して男をどこかへと連行していってしまった。
瞳子の頭に巻かれたハチマキに挟まれた小枝が歩調につれひょこひょこ揺れる。
「……なんだろあれ。瞳子ちゃんの知り合い?」
「……てか、いたんだ。後ろに。」
由里と巧の呆然とした呟きが、白々と風に消えていった。
かの同級生の神楽見 瞳子こそが、事件を機に巧への態度を変えたもう一人の人物であった。
空手部に所属し、「賢脳流」とかいうこの学園の空手部独自の体系を追求していると言うが、二人にはいまいちよく分からない。
なにやら巧と由里の仲に興味津々と公言してはばからない、別の意味で迷惑な少女だった。
そうしてそろって首を傾げているそこに、都営鉄道の駅のミュージックホーンのような涼やかなメロディが一節、学園の敷地の外まで響きわたる大音量で流れ出た。構内放送の合図のメロディだ。
『尾上 巧くん。尾上 巧くん。至急、理事長室まで来て下さい。』
「巧?」
「……うん。」
同じ内容の放送が繰り返されるのを聞きながら、巧は怪訝顔の由里にうなずき返した。

重厚な色合いの調度類が並ぶ広大な部屋。
部屋の主ひとりのためだけだとするならば大げさな程の広さを持つこの部屋の中、その主たる理事長が腰掛けるデスクの前に巧と由里が立っていた。
呼ばれたのは巧だけではあるが、由里を伴ったことに対して理事長は特に何も言わなかったので、共にここにいる。
その、肩書きの割には若々しい面立ちに僅かに面白がるような色を混ぜて二人を眺める理事長のデスクの端には、「騎端 勇治《きばた・ゆうじ》」と書かれた札が置かれていた。
「あの、なんで、これを僕に渡したんですか?」
持ってきたトランクケースの手提げを握る手に力を込め、巧は理事長・騎端に問いかけた。
「あの時、好きに使っていいと言われて、僕は、みんなを守りたくて他のオルフェノクを倒しました! なんで、オルフェノクが入れないこの学園に僕を入学させたんですか? どうして、あの四人はこの学園に入れたんですか?」
呼ばれた用件を聞く前に、巧はまくし立てた。
これまで、聞きたくても理事長が多忙で聞けなかったことを。
「本当に、このまま、これを、僕が使ってていいんですか……?」
「もちろんです。」
巧の、絞り出すような独白に、騎端は笑みを含んだ調子であっさりと答えた。
「君のしたいようにしなさいと、あの時言った通りです。私が見込んで下した判断です。そしてその成果には何も問題はない。」
デスクの上で組まれた両手の上に乗せられた顔は、相変わらず喰えない澄ました笑顔のまま。
「正直、人間に化身したオルフェノクを見分ける方法はありません。学園の入学規約に明記はしても防げない、それが現実。 ですが、尾上くんやあの四人と、それ以外のオルフェノクではやはり大きな違いがあるんですよ。それは、いかにオルフェノクの本能に寄らずに生活できるか。本能を完全に隠して生活できるか。それを可能とするのは強い意志力。そんな高等なオルフェノクだけを、この学園は秘密裏に入学を認めているのです。」
「えっ?」
淀みなくすらすらと告げた理事長の言葉の意味を捉え、由里は思わず一歩下がった。
「ああ。心配いりませんよ。そうは言っても、現在この学園に在籍しているオルフェノクは尾上くんただ一人です。……あとはまあ、学生でなければ、私、とか。」
言って笑みを深めた騎端の顔に、複雑な紋が浮かび上がった。それは、オルフェノクが正体を表す直前のサイン。
「ひっ!?」
「由里ちゃん!大丈夫!理事長先生は大丈夫だから!」
恐怖にひきつる由里の肩を抱き、巧は必死に宥める。
「僕にこのファイズギアを渡したのも理事長先生なんだ!」
「ええ。まあ他のオルフェノクは、人を越えたとか言ってタガを外すことが多いようですが、私はそういうのは嫌なんですよ。」
顔の紋を消して、つまらなそうに言う理事長に、巧にしがみつくことで平静を取り戻した由里もとりあえず話を聞く体勢になる。
「まあこの学園自体、優秀な人材を育成して、ゆくゆくはスマートブレインの社員として迎え会社を発展させようという目的で設立されたのですが、つまりは優秀な、強力なオルフェノクをも欲しがってる訳です。「上」は。」
言って天を指さす騎端。上とはすなわち、学園の名の元となった巨大企業「スマートブレイン」のこと。
「さらに、研究・改修された「ライダーズギア」を若いオルフェノクを素体にして稼働実験しろだなんて指示も来てましてね。あの時私はチャンスだと思ったワケですよ。」
「チャンスって……なんの、ことですか?」
由里を宥めつつも、巧もその雰囲気に圧され、思わず唾を飲む。
「世界を引っかき回す、ね。」
肘を突いた両手に口元を埋め、笑みを含んで呟く騎端。
「オルフェノクに覚醒したからといって、必ずしも人を襲うとは限らない。私や尾上くんのように。 ならば、「ヒト」とはなんなのか。何を以て「ヒト」を「ヒト」たらしめているのか。私たちは本当にもはやヒトではないのか。尾上くんなら、その答えを導いてくれると思いましてね。」
「…………。」
相変わらず底意のしれない笑顔で言う騎端だが、巧は心の奥底でその疑問に同意していた。だからファイズギアを引き受けたのだ。
「さて。そろそろこちらの用件に移らせてもらいますが。」
ぽん、と掌を打ち騎端が居住まいを正した。
「現在、「上」が報道に規制をかけているので表沙汰にはなっていませんが、ある深刻な事件が起こっています。ヒトでもオルフェノクでもない、何者かによる異常殺人が。」
言いながら立ち上がった騎端を追って向き直った巧と由里が、「異常殺人」の言葉に息を飲んだ。
騎端はキャビネットに歩み寄ると、差し込んだ鍵を捻って解錠した引き出しの中から一冊のファイルを抜き出して、応接用のテーブルに広げ、二人を促した。
「ご覧なさい。 ああ、友田くんは見ないほうがいいですよ。」
近寄って、巧が覗き込んだファイルの中にあったのは、ガラスでできた精巧なマネキンが路上に横たわっている写真だった。
「…………なんです?これ。」
「これでも、人間の死体ですよ。」
しれっと騎端が応えた。
だが、その「死体」の様相はあまりにも現実離れし過ぎていて、そう言われても巧にはピンと来ない。
「……はあ。」
「いったいどのようにすればヒトがこうなるのかは分かりませんが、この異常を為した存在については目撃情報と交戦記録があります。 それによれば、オルフェノクとは別種の人型の異形の存在だとか。」
「ええ!?」
それを聞いて巧は仰天した。オルフェノクの存在だけでも人の身からかけ離れた異形の存在として一大事だと思っていたのに、「オルフェノクではない異形の存在」など、場合によってはオルフェノクにとっても脅威になり得るのではないか。
「たまたまそのモンスターと出くわしたオルフェノクによれば、そいつは牙のような弾丸を飛ばし、それに刺されると人間はそのように色を失って死んでしまうそうです。 ですが、オルフェノクはその牙の弾丸に当たってもそのようにはなりません。」
その異常な能力は人間には効くが、オルフェノクには効かない。
それを聞いて対処可能と知った巧は、由美は守れると安心したが、
「が、オルフェノクの攻撃も、そのモンスターには通じなかったそうです。」
「ええっ!?」
巧の思惑はあっさりと砕かれた。
「そこで、尾上くんにお願いしたいこと、と言えばもうだいたい察しはついているかもしれませんが、我々に残る武器はライダーズギアだけです。ですので、ファイズギアで、そのモンスターに対処してみて頂きたいのです。」
「僕が?ですか!?」
思わず己を指さして喫驚する巧。
「そ、そんなの、理事長先生が、ファイズギア使ってやってくれればいいじゃないですか!?」
「オルフェノクになっても、大人は色々と忙しいのですよ。生活が懸かってますから。」
騎端は額に手を当てふう、とわざとらしく溜め息を吐いて見せる。
「それに、稼働実験が必要なライダーズギアは全部で五つあったのですが、ファイズギア以外はクセが強過ぎて未だ装着者が見当たりません。……その上二基のベルトが行方不明……」
台詞の最後にだけ、なぜか騎端から笑顔のままほの暗い怒りのオーラが滲み出て、巧と由里は訳も分からず後退った。
「……まあ、それはともかく、いずれその脅威が例えばそちらの友田くんにも牙を剥かないとも限りません。場合によっては授業とかの単位の操作もこちらでしておきますので、宜しくお願いしますよ。」
「それは……」
「そのことについて話がある。」
巧が逡巡したところで突然扉が開かれ、そんな台詞と共に長身の男が無遠慮に入室してきた。
巧と由里には見覚えがある。先刻、中庭にやって来て瞳子に連行されていった部外者の男だ。
片腕に瞳子を引き擦っている。
「コラ待て透!」
「あんたは……」
敵性のオルフェノクかと身構えるが、瞳子の罵声と言いかけた巧を遮って突き出されたカードに覚えを感じ、巧は言葉を飲んだ。
「このカードに見覚えがあるな? 俺はディケイドと同じような出自の者だ。お前に話がある。」

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テーマ:仮面ライダー - ジャンル:サブカル

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