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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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track.45 ファイズの世界

「このカードに見覚えがあるな? 俺はディケイドと同じような出自の者だ。お前に話がある。」
私立学園スマートブレインハイスクールの理事長室で。
己のライドカードを突き出した透と巧ら一同が向かい合っていた。
「士さん、の?」
巧が、おずおずと問いかけた。
「ほう。噂に聞いた、ピンクとブルーの謎のギアの使い手のお仲間ですか。」
そこに、理事長・騎端が巧を回り込んで透の目の前までやって来た。
「「理事長先生?」」
巧と瞳子の怪訝な声が重なった。
「本人は「マゼンダ」と「シアン」だと言い張るだろうがな。それと、我々は『ギアテクター』ではない。そして、我々は同族ではあるが仲間ではない。」
「そんなことはどうでもいいんですよ。」
言いながら騎端は、爽やかな笑顔のまま透の両の上腕を左右からがっちりと掴んだ。
笑顔の中に、ようやく獲物を捕らえたと言わんばかりの獰猛でほの暗い怒りを滲ませて。
「返してくれませんか?オーガドライバーを。あの時の彼らの戦闘の余波で厳重な保管庫を木っ端微塵にされてからこの方 見当たらないんですよ。そのピンクのか青いののどっちかが持っていったんでしょう!?」
あげく、かっくんかっくんと透を前後に振り回す始末。騎端の笑顔の中の目つきがやや常軌を逸してきたのが傍目にも明らかに見えてきた。
「ちょ、ちょっとちょっと理事長先生!?」
「知らん。そんな情報は受けていない。」
「だったらどちらか当人に直接訊いて、直ちに返還するように言いなさい!こちらとしても人の命と世界の危機が懸かっているんですから!」
「理事長先生!落ち着いて!」
「ねえ透。そのディケイドっていうのも、透みたいに余所の世界で必要があって持って行ったってことじゃないの?」
巧が騎端を羽交い締めにして引き剥がしたところで瞳子が問いかけた。
「それは有り得ない。異世界の脅威が紛れ込む異常が起きたのはディケイドが世界を通過した後のことだ。しかも『ギアテクター』のデバイスだけ持ち出す意味がないことは理解しているはずだ。G3ーXと違って装着者の選定に制限があるからな。」
「ふうん。じゃあさ。ディケイドとかと連絡って取れないの?」
「できない。「システム・ディケイド」は、それぞれが固有のルーチンに従って行動するもの。機能としてのデータリンク以外で「システム・ディケイド」同士が、例えば離れたところで通信などで対話をすることはないし、そもそも意味がない。ディシェッドとの邂逅すら本来は有り得ない例外中の例外だった。」
「じゃあ直接掴まえて話をするしかないんだね。」
ええい離しなさいなどと向こうで喚いている理事長の方に瞳子は振り向いた。
「ええと、見かけたら連絡するって言ってます。」
「お願いしますよ!?ホントに!?」
「てか、なんで神楽見さんがそんな詳しいの?」
「それより、この世界に起きている異常事態についてだが。」
巧の疑問を遮った透の言葉に、ようやく騎端も錯乱から回復し一同は居住まいを正した。

「『ファンガイア』だな。」
「「ふぁんがいあ?」」
応接用のソファに全員が腰掛けたところで、巧、由里、騎端がそろってオウム返しに呟いた。
「異世界の住人でな。その世界では他の世界ではおとぎ話にしか存在しない異種族が多種実在し生活している。その内の人間に次ぐ生存圏の規模を持つ生命体がファンガイアだ。」
テーブルに広げられたファイルの、劣化ガラス体で朽ち果てた遺体の写真をとんとんと指で突いて透は解説した。
「ファンガイアは糧食としてライフエナジーという他の生物の生命エネルギーを吸引する。その方法は、例の牙のヴィジョンを介して行われる。ライフエナジーを吸い尽くされた生物の遺体は変質し、劣化ガラス体となって朽ち果てる。」
牙の弾丸が当たった人間がガラスになって死ぬメカニズムとは、まさしくこれだ。
得心した巧と騎端はうなずいた。
「で。対抗するには?」
「うむ。まず、俺がファンガイアの世界の仮面ライダーを連れてくることだが」
そこに、瞳子が慌てて身を乗り出した。
「ねえ透!? ファンガイアって、芦河さんたちの世界にもいっぱいいたじゃん!? どーすんの!? 遥さんは芦河さんの世界にいなきゃいけないし、キングは自分の世界で忙しいでしょ!? 手が足りないよ!?」
その通りだ。
事情を知らないスマートブレインハイスクールの三人はきょとんとしていたが、透がこれまでやってきたような、「脅威に対応できる仮面ライダーを連れて来る」ことが、今回はできないのだ。
「うむ。そうだな。 瞳子、なにか良い策はないか?」
「知るかああああああッ!」
いきなり真顔で検討を放棄してきた透に瞳子が伸び上がって絶叫した。
「だが、まず相談しろと瞳子が」
「丸投げはないでしょーが!? いくらなんでもこんな寄り切りいっぱいの逆境から世界丸ごと逆転させる知恵なんかないわああああッッ!? 」
「あのー。」
ぎゃんぎゃん吠える瞳子の横から、騎端がぱたぱたと手を振ってきた。
「つまり、的確に対抗できるはずの人が、今はいないということですよね?」
「そうだ。」
臆面も逡巡もなく透はうなずいてみせた。
「そのことですがね、こちらとしても未知の存在ですから、とりあえずライダーズギアでもぶつけてみようと思っているんですよ。」
「いやまだやるとは……」
「ふむ。まずはそんなところだろうな。」
諦め悪くうめく巧を無視して透がうなずいた。
「ファンガイアに対し有効な攻撃は、奴ら自身の持つ「魔皇力」という属性攻撃が最も有効だが、太陽光に類似した性質の兵器も有効だ。その点ではファイズの持つフォトンブラッドならば問題なく滅ぼすことができるだろう。」
「へ?いま、やっつけられるって言った?」
透の言葉に、瞳子がきょとんと問い返した。
「うむ。」
「じゃああたしに訊くことないじゃん!」
「お前は「手が足りない」ことについて問題提起したのだろう? 人手の充足については最初から放棄している。各世界に置いてきた彼らに頑張ってもらうより他にはないことは始めから分かっていることだろう。」
「がーーーー!」
淀みなく正論で返され頭を掻き毟って吼える瞳子。
「だが今回ばかりはどうしようもない。だから訊いたのだがな。」
「あーもーどっちなのよ回りくどい!? だからなにがどう どうしようもないのよ!?」
「一真の世界に、オルフェノクに対抗できる仮面ライダーを連れていかねばならないだろう。」
「で!? 」
「だが、ファイズはこの世界に現れたファンガイアに対処せねばならない。」
「あああああ!? 」
オルフェノクの脅威にさらされた世界はふたつあるのに、ファイズは一人しかいないのだ。
再び混乱したように喚く瞳子をさて置いて、透は騎端に向き直った。
「他にもライダーズギアがあったはずだ。装着者はいないのか?」
「うち一基はあなたのお仲間が持って行ってるはずですがね。」
しつこく根に持った様子の騎端が皮肉っぽい言い回しで告げるが、透の鉄面皮は小揺るぎもしない。
「……もう一基、『カイザギア』がその前から行方不明。残る二基のうち『デルタギア』だったら、近々装着者のアテが付きそうなんですがね。」
どこか含んだ調子で説明する騎端に、透は鷹揚にうなずいた。
「ふむ。ならば、その装着者が確保されるまでは、俺がファンガイアの対処に回ろう。 巧。」
「ふぇ!?」
突然名を呼ばれ、巧は今しがた目覚めたかのように目を瞬かせ泡を食って振り向いた。
「な、なに!?」
「お前に頼みがある。準備ができ次第、俺に代わって別の世界に現れたオルフェノクを始末してもらいたい。」
「いやだーーーー!? 」
言われるなり巧はもの凄い形相で絶叫した。
「なんで僕が、そんな異世界まで行かなきゃならないんですか!? 僕は、由里ちゃんさえ守れればそれでいいんだ! そんな、余所のことまで知りませんよ!? 」
「巧……」
必死に言い募る巧に、由里は複雑な表情を浮かべた。
その二人の様子を頬杖を突いて横目に見ていた瞳子は心中で溜め息を吐いた。
傍目に見てても、巧の心に余裕がないことと、由里が己のことよりも巧の身を案じていることぐらいは分かる。伊達に二人のストーカーをやってはいない。
それに、巧の行動原理を考えれば今の反応は仕方のないことだ。巧の目的は身の回りの平穏であり、巧個人には世界ひとつ背負う義理などどこにもないのだから。
使命を持って行動する透や遥や音撃の鬼たち、自分の命を守らねばならなかった翔一らと、この巧とでは立場が違う。
「ねえ透。とりあえずその『デルギター』とか言うので変身できる人が見つかるのを待とうよ。世界の危機も大変だけどさ、巧ひとりに無理強いもできないじゃん。」
「ふむ。」
「『デルタギア』、です。」
相づちを遮って騎端がしつこく訂正してきたが、透は無視してソファから立ち上がった。
「仕方がない。他を当たるとしよう。」
それきり透は巧には目もくれずにドアへと歩いていった。
「ちょっと透!? そんな言い方ないでしょ!?」
慌てて立ち上がった瞳子が透に追いすがる。
だが透は一切構わずにドアを開けて出ていってしまった。
閉まりかけたドアを掴んで廊下側の透を見送った瞳子は、僅かに逡巡してから室内を振り向いた。
「ああもう!? ……巧!」
どこか申し訳なさげにこちらに目だけ向けた巧を、瞳子は真正面から見つめてはっきりと宣告した。
「そんな顔しないの! 自分で決めたんならそれを貫きなさいっ!オトコでしょっ!? 」
ぎょっとした顔で仰け反る巧に構わず瞳子は怒鳴り続ける。
「あたしだって死にたくないけどっ!? だからって巧一人に全部押しつけるのがおかしいってことぐらい、分かってるからっ!」
きょとんとしている巧の見つめる前で、瞳子はまだ言葉がありそうにわなわなと震えていたが、結局そこで身を翻してドアの向こうに飛び出していった。
「か、神楽見さん……」
「モテモテですね。尾上くん?」
「ッッ!?」
騎端の笑みを含んだ声に巧は慌てて振り向いた。
「ま。そういうことで、今回の件は以上です。ファンガイアを見かけたら、お願いしますよ」
そうだ。変な介入があったが、現在騎端に放送で呼び出された件は依然として存在していたのだ。
「だけど、僕は……」
「巧。話が終わったんなら、行こう?」
突然、逡巡する巧の腕を引っ張り上げて由里が立ち上がった。
「ちょ、由里ちゃん!?」
「それでは理事長先生、失礼します。 ほら!いいから!」
「あわわ」
はきはきと告げ由里はさっさと巧を引きずって歩き出した。
その勢いのまま理事長室のドアをくぐり出る。
「ちょ、ちょっと由里ちゃん!?」
「いいから! 巧、ちょっと落ち着いて考えよう!? 」
先に立って廊下をずんずんと進む由里は、前だけを向いて、悲痛な声でそう言った。
「みんな巧、巧って……。私だって、私だって巧が辛そうにするのなんか見たくないんだからあっ!?」
「由里ちゃん……」
引っ張られる巧には、その時由里がどんな表情を浮かべていたかは見ることができない。
ただ、その今にも泣きそうな声音に激しく胸が痛み、どうすればいいか分からないもどかしさにまた苦痛を覚えて眉をしかめた。

スマートブレインハイスクールの校門付近は今、異様な雰囲気に包まれていた。
おかげで下校しようにも門を塞がれて出ることができない生徒たちでごったがえしていた。
何が異様かと言えば、この学園の校門の外を、他校の学生服の集団が半円を描いて立ち塞いでいたからだ。
それもただの学生ではなさそうだ。
彼らが纏っているのは、元は詰め襟タイプの学生服だと思われるが、一様に変形が激しく、腕脚の裾は広がり、上着も「それはコートか」と疑うほど長く延びていて、とても校則基準を満たしているとは思えない。それとも彼らの学校の校則の方がまともではないのだろうか。
そして、日常でいったいどの様に運用しているのか、どれもこれもあちこちがボロボロにほつれているのだ。
さらに、その集団のほとんどの者が上着の下にYシャツはおろか肌着の類を着用しておらず、胸板が厚い素肌を覗かせていた。それは逞しい胸板ではあったが、セクシーなどという感慨からは程遠く、ただひたすら暑苦しい。
彼ら全てに共通していることはと言えば、皆そろって獰猛な気配を発散し、威嚇的な態度で学園を睨み付けていること。
何より最も異様なのは、その集団の中に、明らかに十代とは思えない年かさの者が混じっているように見えるということだった。それがたとえ変形学ランであろうとも、著しく似合っていなかった。
「なにあれ」
「テレビで見たことあるぜ。懐かし映像とかで昔の「キンパチ先生」に出てきた生徒みてえ」
「は?じゃなに、あいつら昭和時代のイキモノ?」
「すげー。あんな長い学ラン初めて見た」
当時生まれてすらいない者ばかりの学園の生徒たちが時代錯誤な昭和の古くさい臭いを感じひそひそと囁き合う。
なにしろその異様な訪問者の中には木刀や鉄パイプ等で武装している者もいるのだ。
門番を務めていた気のいい警備員のおじさんは早々に追い払われてしまった。
面と向かって抗議する者は誰一人いなかった。
やがて、学ランの集団の中から一人の男が進み出てきた。
やはり他の面々と似たり寄ったりの格好だったが、その男は唯一白のハチマキを額に締めていた。
男は、周囲の奇異の目線などものともせずに辺りを睥睨し、すう、と息を吸い込んだ。
「わしゃあ!『流星塾』二号生筆頭!|相模原 修二《さがみはら・しゅうじ》じゃあああ!」
突然の凄まじい怒号に、校門に群がっていたスマートブレインハイスクールの生徒たちが一斉に後退した。
否。男の常識外れの胆力から放たれたプレッシャーが生徒たちを押し退けたのだ。
「うわー!? なんだなんだ!?」
「声でけー!?」
とうとう生徒の数人が校舎へと逃げ戻ってゆく。
「決闘じゃああ!空手部の連中!出てこんかいいいーーっ!」
再び放たれた怒号に、とうとう校門のレンガにびしりとヒビが入った。
「ちょっとちょっと!?」
一斉に耳を塞いだ人垣を押し退けて、校門の前に瞳子が飛び出してきた。
「なんなのよあんた達はあっ!?」
「出たな小娘!」
瞳子の姿を認め、男・相模原 修二は腕を振って応えた。
「何しにここまで来たのよ!? 勝負はこないだのでついたでしょお!?」
「ふん!あんな未熟者連中を倒しただけで、わしら『流星塾』の力をあんなものと思ってもらっちゃあ困るんじゃいいーーっ!」
吼えて相模原が指さした方を見れば、学ラン集団の端に全身包帯まみれの重傷患者が数人いた。
「今日は、わしが本物の『流星塾』の空手っちゅうモンを教えてやろうと思ってな。」
ごきりと拳を鳴らしてみせる相模原。
「瞳子。知り合いか。」
「透?」
そこに、透が瞳子の横に現れた。
「うん。こないだ空手部の大会があってね。そん時あたしがヘコましたやつら。」
「「ヘコました」言うなあああああっ!?」
突如 相模原が絶叫した。
「わしはまだ負けを認めたワケじゃないわあああっ!」
「知んないわよ!? あんた応援席にいたじゃん!?」
「ふっ。お前達を見くびっていたことは認めよう。」
いきなり平静になった相模原は、したり顔で呟いた。
「ぬるま湯教育に浸かった連中が集まるヘナチョコな大会と思って手心を加えたのはわしの慢心だと反省した。」
「こいつ、大会に出場できる人数制限があんのに、わしが出るーとか途中で騒ぎ出してさあ」
「ほう。」
「だから!」
瞳子と透の遣り取りを遮って相模原が突然声量を上げた。
「反省したから、今度はきちんとわしが相手をしてやると言っているんじゃあああーーっ!」
「帰れ。手続きして出直してこい。」
「ぐうっ!?」
「そもそもナニ大勢で来てんのよ。通行の邪魔。」
「ぐうっ!?」
「あとあいつとかあいつとか、なに物騒なモノ持ってんのよ。それでナニする気!? 帰り道で絶対逮捕されるよ!? つか、よくここまでお巡りさんに見つからずに来れたね。」
「ぐうっ!?」
木刀や鉄パイプをぶら下げた学ランの男を指さして指摘する度に、相模原は胸を押さえて崩折れてゆく。
やがて相模原はうずくまって動かなくなった。
「つーわけだから。帰った帰った。」
だが瞳子は容赦なく両手を叩いて冷徹に追い払いにかかる。
「……ふ……ふふふふふふ……」
やがて、突っ伏した相模原の下から地獄の鳴動のような含み笑いが漏れ出てきた。
それと共にゆっくりと起きあがる。
対して瞳子のつまんなそうな顔はまったくの無反応。
「拳の勝負に時も場所も選ばんわ!いま!ここで!わしと戦ええええ!」
絶叫と共に踊りかかってくる相模原に対し、瞳子はつまらなそうな顔のまま実に冷静に身構えた。
「喰らえわりゃあああああ!」
相模原が拳を振りかぶって突進してくる。
だがその姿は瞳子の直前に割り込んだ人影によって巻き込まれるように進路を変え、路上を数メートルほど転がっていった。
野蛮な物腰の割に腕はそれほど悪くなさそうだった相模原を投げ飛ばしたのは、言うまでもなく横にいたはずの透であった。
「……あー。あんたって、そういうのもできたっけね。」
「クラぁああ!貴様!教師が生徒の喧嘩に出て来るんかい!? 」
やおら立ち上がって相模原が吼えた。どうやら透のことを学園の教諭だと思ったらしい。
「でもさぁ、学生レベルの喧嘩にあんたが手ぇ出すのはさすがに大人げないんじゃない?」
「いや。そうでもない。」
転がされた男のことを無視してしゃべり始めた瞳子に透はいつものペースであっさりと告げた。
「そいつはオルフェノクだぞ。」
「は?」
「あと、そいつとそいつと、あとそいつもオルフェノクだな。」
次々と学ラン集団を指さす透の台詞の意味が瞳子の耳を伝って脳に浸透するのにだいぶ時間がかかった。
「はああああーーーーっ!?」
「おう!オルフェノクだから、なんだって言うんじゃいっ!」
瞳子の喫驚を遮って相模原が怒声をあげた。
それと同時にその姿をぼやかせ、灰色の異形・オルフェノクへと変貌する。
「ああっ!?」
「うわーーー!?」
その姿を見てスマートブレインハイスクールの生徒たちは悲鳴をあげて一斉に逃げ出していった。
『ふん。甘ちゃん共め。修行が足らんわ。』
二本の湾曲した角のような触覚を生やしたアリジゴクの生体相を持つアントリオンオルフェノクは、肩を揺すり相模原の声で嘲笑した。
「……あ、あんた、オルフェノクだったの!?」
『……ふん。それほど珍しいものではないだろう』
瞳子の声にぼやいて返し、アントリオンオルフェノクはあっさりと人間・相模原の姿に戻った。
「この学園にもいたらしいじゃないか。人を襲うオルフェノクと、そいつから人を守ったオルフェノクが。」
続けて不機嫌そうに吐き捨てる。
「それに……あんたたち、なんで……」
瞳子は、そこに見たもうひとつの異常、相模原の正体を見ても微動だにしない学ラン集団『流星塾』の一同を見回してうめいた。
透の指摘によれば、この三十人近い中に相模原のほかにオルフェノクがあと三~四体はいると言う。
オルフェノクの他は間違いなく人間だろうに、彼らはそのことで眉一つ動かさなかったのだ。
「それはワシから説明しようお嬢ちゃん……」
そこに、学ラン集団の人垣を割って深みのある声が告げてきた。
同時に全員びしりと「気をつけ」の姿勢で左右に分かれ整列した間に現れたのは、初老の男性。年の割りにがっしりした肉体を作務衣で締め付けたその姿は、まるで武道か何かの達人のような佇まいであった。
正直、どっかの軍事国家を見ているようで瞳子は軽くヒいていたが。
その男は校門の前まで来ると、深く息を吸い込んだ。
既視感を感じた瞬間あることに閃いた瞳子を含むその場の全員がとっさに耳を塞いだ。
「ワシが流星塾塾長!!」
びききっ、と校門のレンガのヒビが延び、横一直線に壁を両断した。
「|花形 平八郎《はながた・へいはちろう》であああああるッッ!!!」
シパンッ!パンッ!パパパンッ!
続いて校舎の窓ガラスが端から順にひとつ残らず砕け散っていった。
「ーーーーーーッッ!?」
耳を塞いだ両手を突き抜けてくる轟音の威力に瞳子は必死に抗った。
見れば、彼の塾生であるところの学ラン集団も耳を押さえたまま必死の形相で堪えており、うち何人かが真っ逆様にひっくり返って両足を天に突き上げていた。
残響が辺り一帯の大気を震わせ、無数のカラスの群が泡を喰った様子で飛び立ち、そこら中のご近所から犬の吠え声が幾重も飛び出した。
「ふっふっふ。お嬢ちゃん。その手を耳からどけて話を聞いてくれるかのう?」
己の側頭部をとんとんと指でつつきながら問うその男・花形 平八郎の姿に、瞳子は恐る恐る両手を離した。
「……なんなのよあんたントコは……」
「それからそこの若者も。」
「へ?」
花形が示した指先を振り返った瞳子は、そこに信じられない光景を目撃した。
あろうことか、透が直立の姿勢で地面に真っ直ぐ突っ伏していたのだ。
両手の位置からして先ほどの花形の怒号をまともに喰らったのではないかと思われた。
「ちょ、とおる!? とおるっ!?」
慌てて透に取りすがるが、返事が返ってくるまで思いがけない時間がかかった。
「……むう、今のは、いったい……」
「透!? あんたオーナーのプレッシャーは効かなかったのになんでっ!?」
「ふっふっふ。修行が足らんのう?」
自ら引き起こした災厄など忘れたかのように花形は朗らかに笑った。
「まあ聞くが良い。我が流星塾は、日本全国から様々な事情で爪弾きにされ教育を受けられない者を分け隔てなく受け入れてきた。その「様々な事情」とは、周囲とは馴染めないはみ出し者であることがほとんどで、そこにはもちろんオルフェノクとなった者も含まれる。」
「まさか……そんなことが可能なの!?」
「ふっふっふ。目の前に実例があるじゃろう?」
見れば、塾生たちは一様にうなずき、中にはオルフェノクに変移した者と肩を組んでいる者すらいた。
「……うそ……」
「それに、オルフェノクと共存している例はそちらにもあるじゃろ。」
「ふん。小娘との勝負は後にして、こっちの用事から片付けるか!?」
花形に続き相模原が突き出した指先を追って振り向いた先には、生徒がいなくなった校門の向こうには、心配そうな顔の由里を伴った巧が現れていた。
その手にはアタッシュケースが握られている。
「…………。」
巧は、相模原を見つめて唇をきつく引き結んでいた。
「お前がスマートブレインハイスクールの守護者・尾上 巧だな?」
相模原の詰問に、だが巧は沈黙で応えた。
相模原も巧が何者なのか分かっているのか、それ以上なにも聞くこともなく巧に正対し、巧が持つものによく似た、だが二周りほど大きなアタッシュケースを取り出した。
留め金を解放して蓋を開き、中の機械類をガチャガチャと取り出すと、金属製の円環となったそれを己の腰に巻き付けた。
瞳子も見たことがある、ファイズギアによく似たそれを装着した相模原は、黒い携帯電話を取り出し、本来ならディスプレイのあるパネルをリボルバー式に回転させて展開し構えた。
「さあ!お前の持ってる物を出してみろ!」
「ちょっと!? あんた本当にナニしに来たのよ!? 」
巧に向かって携帯電話の先を突きつけた相模原に、瞳子が喰ってかかった。
「それってファイズのと同じやつ!? そんなもの持ち出して、あたしを殺す気!? 」
「お前とは、きちんと人間の範疇で空手で決着をつけてやるわ! だが尾上 巧は違う!」
「へ?」
真摯な瞳で応える相模原に、瞳子はきょとんと聞き返した。
「学園を守るだと!? オルフェノクになっても人間を守るだと!? 尾上 巧のその妄言、本物かどうか確かめたい! 半端な覚悟だったら、このわしが灰にして散らしてくれる!」
言いながら相模原はキコン、キコンと特徴的なプッシュ音を鳴らしながら携帯電話のキーを押し込んでゆき、エンターキーを押してから手首のスナップでリボルバー式のパネルを回して閉じ眼前に逆手に構えた。
《スタンディングバイ。》
「変身!」
認証の音声に続いて携帯電話をベルトバックルのコネクタに斜めにセットし、水平に押し倒した。
《コンプリート。》
認証が告げた途端、ベルトバックルの両端から上下に黄色の光条が延び、相模原の体表で幾何学模様を描くと一際強く閃光を放ち、そのあとには顔面にギリシャ文字の「χ(カイ)」をあしらったマスクを持つ装甲服の姿が現れた。
変身した相模原は乱暴に喉元の装甲を引き襟元を整えるように顎を振ると、巧に向かってすたすたと歩き出した。
『さあ!お前も出してみろ!』
「「巧!? 」」
瞳子と由里の叫びが重なった。

だが、巧は懊悩の表情で固く唇を引き結び、迫るカイザを睨み付け立ち尽くしていた。

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テーマ:仮面ライダー - ジャンル:サブカル

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