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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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track.46 ファイズの世界

校門での騒動に気付く少し前のこと。
巧と由里は生徒会室を訪れていた。
「あのー。失礼します……」
少々気後れ気味にドアを開くと、室内にいた生徒数人がこちらを振り向いた。
だが彼らは訪問者がオルフェノクである巧だと知っても、他のクラスの生徒のような大げさなリアクションは見せなかった。
「来たか。」
その部屋の最奥のデスクについていた生徒会長・草壁 雅人が、かつてと同様の怜悧な表情で呟いた。
「入りたまえ。 皆、すまないが席を外してくれ。」
草壁は巧に入室を促すと、生徒会役員に退席を告げた。
特にこれといった反応も見せず、唯々諾々と席を立つ役員の生徒たち。かつて草壁が語ったことが生徒会の総意であるということは事実のようだ。
いったいそこにどのような経緯があったのか。草壁の影響力なのか、生徒会の人間が物分かりが良いのか、今の巧には知りようもない。
やがて退出する生徒らと入れ違いに入室した巧と由里は、勧められるまま空いた椅子に腰を下ろし、対面に着席した草壁と向き合った。
「やつれた顔をしているな。迷っているのか。」
「!? 」
実は大した用向きも考えずにここまで来たのだが、草壁に内心を言い当てられ巧は顔を跳ね上げた。
「君はなぜ、それを持っている?」
続けて発せられた問いが指すことが、草壁の目線の先にある、傍らに置いたアタッシュケースのことだということはすぐに分かった。
「守りたい者を守りたいからだろう?」
「……でも、力を持っているんだから戦えって言う人もいるんです」
つい意図せず口をついた言葉に自分で驚愕しつつも、言いたいことはその後から続いて出てきた。
「でも、別に僕はそんな世界を救いたいだとかそんな大それたことは考えてないんです。正直、身の回りを守るので精一杯って言うか、自分の周りとか、由里ちゃんさえ平穏でいられたら、それでいいって言うか……」
言いながら、己の発言の意味に気付いて尻すぼみになってしまう。
「……勝手なのは分かってるんですけど、でも僕がたまたま人を襲わないオルフェノクだからって、オルフェノクに対抗できるからって、僕だってそんなわざわざこっちから喧嘩なんかしたくないし……」
周りからの勝手な期待と、自分の勝手にしたいということのジレンマ。
それがいま巧の心に陰を落としていた。
「勝手なのは誰もが同じだ。」
沈黙の隙に、草壁の怜悧な声が差し込まれた。
その言葉に はっとして巧は顔を上げる。
「ファイズとして装甲服姿に変身し、悪の異形を退ける。まるでヒーローだな。 もし強靱な力に高潔な意志と世界平和を守る使命感まで持ち合わせていたならそれはさぞかし素晴らしいことなのだろう。 だが、忘れてはいけない。それもヒーロー自身の都合であるということを。」
長広舌にも関わらず草壁の表情はまるでつまらない話でもするかのようにあくまでも平坦なままだ。
「力ある者が力なき者を守らなくてはならないなどという決まりなど存在しない。現にオルフェノクは暴虐の限りを尽くしている。そこに善意のオルフェノクがいたとして、弱き者にしてみれば、自分に代わって暴力を退けてくれる便利な道具に過ぎない。あの時、ラッキークローバーの四人を退けた君に皆が何をしたのか忘れてはいまい? 「強い能力には責任が伴う」などという妄言を良く聞くが、果たして暴虐のオルフェノクを前にそんな言葉がどれほどの意味を持つのかな」
そして草壁の平坦な口調にやがて、嘲りの色が混じり始めたのに巧は気付いた。
「勘違いするな尾上 巧。助けを求める声が、例え無垢なる乙女の純真な願いという形をとっていたとしても、実質それは真綿で首を締め付けるような脅迫、己の命を盾にしたテロリズムも同然に過ぎない。ヒーロー気取りが敵を退けている間、弱き者どもは何をしている? 一時の感謝こそすれ「自分は戦わなくていい」と高を括って次なる面倒事を押し付けに来るだけだ。」
草壁の言葉は次第に熱を帯びてきた。それがこの場にいない者に対してのものだと知りつつも、巧自身も圧倒されていた。
「浅ましい。自ら戦うことを放棄した弱き者どもと、オルフェノクに変質したくらいで自ら人であることを放棄した連中とではその心根の置き方に大差はない。そんな愚蒙な輩に身を堕とすなど私は御免だ。 だから私が君に願えるのはだ。尾上 巧。」
そこで草壁の冷徹な瞳が巧の瞳を真っ向から捉えた。
「せめてその暴力を私に向けないで欲しいと思う、ただそれだけだ。」
「そ、そんなこと!? 」
「君の力は君だけのものだ。誰にもその使い道を強制することはできない。力ある者がその力の在りように悩んでいる間に、力なき者は何をしていた? 自分に力が無い事を言い訳にして他人の悪事や不幸を黙認して看過し、責任の押し付け合いをしているだけだ。 そんな怠惰で、無責任で、狡猾な偽善者などの為に君は指一本動かす必要はない。」
「…………」
「そして力を行使するのなら忘れるな。君の敵はなんだ?望む結末を導く為にはなにをすればいい?」
「俺の……望み……?」
「君の存在が私の希望だという意見は変わらない。オルフェノクの力の上、ファイズの力をも持っていながら驕ることを良しとしない君だからこそ、だ。」

やがて巧と由里が退出した生徒会室にひとり、座る草壁はやがてデスクの下からアタッシュケースを引っ張り出した。
巧が持つ物とほぼ同じ大きさのアタッシュケースだ。
「…………。」
陶でできたかのような無表情のまま草壁はそれをデスクに乗せ、ややあってから留め金を外してケースを開いた。
「…………。」
そこに収められていたのは、円に三角形を収めたマークを中央に据え付けた巨大な機械をバックルとした、三本の白いラインを描かれた金属のベルトと、銃把のみのような形状をした小振りな機械、そして似たようなデザインラインを持つデジタルビデオカメラの三点だった。
「…………。」
蓋を押し開けた手を下ろし、再び背もたれに上体を預けた草壁は、その機械を無感動に見下ろした。
「……尾上 巧。君が力に溺れるようなことになったなら。 私は君を打ち滅ぼすぞ。」
そしてガラスのように無機質で冷たい眼差しで伸ばした指先を機械の三本線に這わせた。

『さあ!お前も出してみろ!』
「「巧!? 」」
迫るカイザを前に棒立ちしている巧を見て瞳子と由里の叫びが重なった。
「……!」
『んがッ!?』
突然、無防備に見えた巧が投げつけたアタッシュケースを顔面にモロに喰らいたたらを踏むカイザ。
不意は打たれても大したダメージにはならなかったカイザがあっさりと体勢を立て直した時にはだが、もう既に巧の腰に金属のベルトが装着され片手には展開した携帯電話が握られていた。
『……ほう。やる気になったかよ!』
「……お前の都合なんか知らない。」
無風の湖面のように静かな瞳でカイザを睨めつける巧の様子に、由里と瞳子は息を飲んだ。一瞬、まるで別人に見えた。
キコン、キコンと特徴的なプッシュ音を立ててキーを押し込んでゆく巧は続けて穏やかに言葉を紡ぐ。
「僕はただ、平穏な世界にいたいんだ。オルフェノクだのなんだのなんて、どうでもいい。」
《スタンディングバイ。》
エンターキーの入力と共に認証を発声した携帯電話を手元も見ずにたたんだ巧は、カイザを睨み付けたまま言葉を続ける。
「出て行けよ。ここは由里ちゃんの大切な世界だ。僕はここにいたいんだ。 ……邪魔をしないで。」
そして巧は、宣誓するかのように携帯電話を握った手を天に突き上げると、高らかに叫んだ。
「変身!」
続いて上げた手を真っ直ぐに振り下ろし携帯電話をベルトバックルのコネクタに接続、横に押し倒してバックルの中央に据え付けた。
《コンプリート。》
認証の音声が告げた後、バックル両端から赤の光条が上下に伸び、巧の体表で幾何学模様を描くと一際強く輝きを放ち、閃光が収まった後にはギリシャ文字の「Φ」をマスクにあしらい、先の赤のラインを描かれたシルバーの装甲服の姿が現れた。
『よっしゃ!かかってこい!お前の覚悟を見せてみろ!』
『出て行け、と僕は言ったんだ。』
喜色を浮かべて打ち合わせた両掌を上に向け手招きするカイザに対し、巧が変身したファイズはあくまでも平静に、そして鋭く一直線に突進してゆく。
だが固唾を飲んで巧を見守る瞳子の目には、例え荒くれていても修得した空手に基づく体術を備えたカイザに対してファイズの体裁きはいかにも危なっかしいものに映った。
『ぅあああああああ!』
『ぬおおおおおお!』
気勢を上げる両者が今まさに激突するかと思われたその瞬間。
横面にふたつの巨大な|蹄《ひづめ》の突撃を喰らったカイザがまるで砲弾のように真横に吹き飛んでいった。
『……は?』
きょとんと中途半端な姿勢で足を止めるファイズが見たものは、いつの間にか目の前に立ち塞がっていた、灰色の巨大な人馬の異形の後ろ姿だった。
今、彼方で鈍い轟音が響き、吹き飛ばされたカイザが飛び込んだ物置小屋ががらがらと倒壊した。
『……か~え~せ~……』
呆然とする一同の前で、本来なら馬の首が生えている所から人型の上半身を生やした、オルフェノクの中でも稀に備え持つ異形態を顕したホースオルフェノクが、まるで地獄の底から立ちのぼるかのような怨嗟のうなり声を吐き出した。
その声は知っている。このスマートブレインハイスクールの理事長の声。つまりこのオルフェノクは騎端が変じた姿だ。
それも、オルフェノクの異形態は感情の高ぶりに呼応して発現される。つまりは、騎端は相当怒り狂っているということだ。
「ぬう!いかん!あれは攻撃色だ!全員、全速力で退避せよ!」
「「押忍!」」
『かぁ~えぇ~せぇ~!』
ほの暗い怒りのオーラを背負った人馬形態を見て血相を変えた花形の訳の分からない指図に従い、昆虫の死体のようなポーズで昏倒したカイザを担ぎ上げた流星塾塾生一同とそれを追うホースオルフェノクが学園正門前からどたばたと走り去っていった。
「「…………。」」
いきなり静かになった門の手前で呆然とそれを見送る瞳子と由里とファイズ。
「な、なんだったの?あれ」
「ってか、アイツのベルトが、理事長がなくしたベルトだったんだ……」
「理事長先生、怒り過ぎですよ……」
由里が、瞳子が、ベルトの携帯電話を引き抜いて変身を解除した巧がめいめいぼやいた。
そこに、パソコンのハードディスクのように非常に静粛な駆動音を立てるバイクがやって来て停止した。
「乗れ。瞳子。」
「透!? 」
黄色の地に黒と白のドットパターンを描いたマシンディレイダーに跨った透が、無感情に瞳子を促した。
「って、バイクなんか持ち出してどこに行くっての?」
「あれを追う。」
「は?」

町外れの山の麓、丘陵地帯に続く森の中の拓けた野原で。
大地に突き立つ数十もの黒く歪な柱に囲まれて、花形とカイザと、怒り狂うホースオルフェノクが対峙していた。
あれほどいた流星塾の塾生は二人を残してすべて真っ逆様に地面に突き刺されてしまっていた。すなわち、いま辺りに乱立している黒い柱は、騎端によって片っ端から頭から地面に埋め込まれた塾生たちだった。
「気を付け」の姿勢で真っ直ぐ地面に突き刺さった塾生たちは時折、足首をぴくぴくさせている。どうやら死んではいないらしい。
『かぁ~えぇ~せぇ~……』
「ふっふっふ。ウチの塾生たちも修行が足らんかのう。いや、さすがは騎端。「イルラッククローバー」に誘われただけのことはある。」
未だ正気を失った様子のホースオルフェノクの怨嗟のうなり声に、花形の面白がるような声音が応える。
『くっ!すまないみんな!ワシがふがいないばっかりに!』
蹴散らされた仲間たちを見回し、カイザが拳を握り悔恨のうめきを漏らす。
昏倒から復帰したのは、自分を運んでくれた仲間が蹴散らされた時に投げ出されたショックのおかげで、気が付いた時には既にこの状況だったのだ。
『だが、ワシに希望を託したお前らの気持ち、無駄にはせん!こいつは、必ず倒す!うおおおおおおお!』
「あんたが一言謝ってソレ返せばいいだけでしょおがあああああッッ!?」
涙を振り払って駆け出したカイザが突如、横から飛び込んだ瞳子のドロップキックをまともに横面に喰らってがらごろと派手に彼方へ吹き飛んでいった。
「ああもうたいがい会話になってないんだから!」
華麗に着地し腰に手を当て言う瞳子の背後に透が駆るマシンディレイダーが静粛に停車する。
フロントカウルに瞳子の靴の足跡が付いている。どうやら走行中のバイクをカタパルト代わりに跳び蹴りを繰り出すことで、カイザギアを纏った相模原すら吹き飛ばすパワーを得たらしい。
「理事長先生もそろそろ正気に還ってくださいっ!」
『……おお。』
灰色の人馬が、たった今覚醒したかのような声を漏らす。
『……って言うか、神楽見くんも度胸が据わってますね。私のこの姿を見ても、何とも思わないんで?』
揺らめくように身体を縮小させ、人馬形態から人型のオルフェノクの姿に戻る騎端が、地面に落とした影のヴィジョンから問いかけた。
「なんかもう、透のおかげでいろいろ見飽きましたから。っていうかこの惨状のほうがドン引きです。」
瞳子は手を振って辺りの逆さまの塾生を示してぼやくように言い返す。
『ぬうう、小娘きっさまあ!|漢《おとこ》と漢の勝負の邪魔立てをするかあ!』
「やっかましいっ!コトの図式だけ見たらあんたタダのドロボウじゃん!? 」
土まみれになってのしのしと戻ってくるカイザに向かってがうっと吠える瞳子。
「じゃがのうお嬢ちゃん。わしらもカイザギアの力が必要だったんじゃ。」
そこにいる花形が溜め息混じりにそう呟いた時、山に続く森の奥からなにか鳴動する音が響いてきた。
「そら。来たぞ。」
「へ?」
『……なにが来るって言うんです?』
花形の言葉に、瞳子と騎端が怪訝な目線を森の奥に遣る。
すると、森の奥の暗がりを突き破って巨大な『何か』が飛び出してきた。
「『へ?」』
それがあまりにも巨大過ぎ、かつ見知った形状のものが常識では有り得ない大きさに拡張していた為、それを見た瞳子と騎端の認識が僅かに遅れた。
だが「瞳子の記憶」にはある姿。その事に気付くと瞳子はホースオルフェノクの傍らに駆け寄り灰色の上腕を叩いて叫んだ。
「逃げて!あれは魔化魍・バケガニ!ここじゃ誰も対抗できない!」
『え?は?』
「いいから逃げてっ!?」
相手がオルフェノクであることも厭わずにその身体をぐいぐいと押す瞳子。
「透っ!なんとかして!こっちは逃げるから!」
「わかった。」
「ほら!みんなもいつまで寝てんの!」
透と入れ違いに駆け抜け、騎端と一緒に辺りで昏倒していた流星塾の塾生たちを蹴り起こしてゆく。
そうしている間にも、全高では樹木も越えないが前後左右に巨大な形状のバケガニは八本の節足を蠢かせ迅速にこちらへ迫ってくる。
透がカードとディレイドライバーを引き抜いて駆けてゆくが、なんとそのバケガニの手前にカイザと花形が立ちはだかった。
「ちょっ!? 危ない!? 逃げなさいっ!?」
「どけ。この世界のライダーでは対処できない。」
『はあ?』
瞳子の絶叫にも透の指摘にも、あろうことかカイザに変身した相模原は怪訝声でとんでもないことを口にした。
『つってもワシ、何匹かこういう「妖怪」を倒したぞ?』
「はあぁああ!? 」
バケガニを指さして素っ気なく告げるカイザに瞳子は素っ頓狂な声をあげて喫驚した。
「バカ言ってんじゃないわよ!音撃道の鬼たちが鍛錬に鍛錬を重ねて練り上げた音撃でようやくやっと打ち倒せるモンなのよそれは!それが、オルフェノクだろうが機械の鎧着てようが、倒せるワケないでしょお!?」
「そう言われてものう。……どれ、修。いっちょ揉んでやれい。」
『押忍!』
聞く耳を持たない花形は軽く指示を下し、カイザは気勢と共にバケガニに向き直ってしまう。
「ちょっ!? ……ああもう!? 透!?」
「分かっている。変身」
ディレイドライバーにカードを挿し入れ、抜刀の動作でスライドカバーを閉塞し、迅速にその身をドット柄のノイズに包んで彼方より飛来したライドピラーを受けイエローに変じ、ディレイドに変身した透が花形の脇を駆け抜けてゆく。
『邪魔だ先公!』
ディレイドの出現をも「出過ぎた教師のやること」と勘違いして切り捨て、カイザはベルトバックルの携帯電話表面から円に×字の飾りをあしらったチップ「ミッションメモリ」を引き抜きそれを取り出した巨大な黄色い「X」を模した機械に挿し込んだ。
すると機械の一端からイエローの光条が伸びまさしく「光の剣」と化した。
続いてベルトバックルの携帯電話のリボルバー式の蓋を僅かにずらすと、その下のエンターキーを押し込んだ。
《イクシードチャージ。》
キィンと甲高い共鳴音と共にバックルから体表のイエローのラインを一際強い輝きが辿り脇を右腕を伝ってその手に握る機械へと流入していった。
『巻き込まれても知らんぞ! 行くぞ!流星塾流・究極奥義!』
叫ぶカイザがかざした光の剣を振りかぶって大仰に構えを取る。
それにしても、さっきからとんでもない大声だ。マスク越しでも辺りの木々が震える声量。
マスクの中の自分の耳は大丈夫なのかと心配になるほどである。
『|甲斐座棲羅修《かいざすらっしゅ》ッッ!』
奇妙なイントネーションで叫んだのと同時に振りおろしたカイザブレイガンのブレードから、巨大な光弾が射出された。
『?』
後方から迫る光弾に気付いて脇に避けたディレイドのそばを掠めて飛んだ光弾は、狙い違わずバケガニの身体にヒットした。
その途端、光弾は弾け飛び、だが飛散はせずにバケガニの身体にまとわり付くとエネルギーネットを形成してバケガニの動きを完全に封じてしまった。
『でやあああああああ!』
射出と同時に駆け出していたカイザが迅速に巨体に迫り、カイザブレイガンを逆手に構え、と言うよりもまるでメリケンサックでも握るように振り上げて。
『往生せいやあああああっ!』
しつこい絶叫と共にバケガニの甲殻にそれを叩き込んだ。光刃の部分ではなく、×字の本体の方を。
正直、音撃以外は効かない事を知っている瞳子はその光景を白けた目で眺めていたのだが、続く有り得ない光景に目を剥き完全に言葉を失った。
音撃以外は受け付けないはずの巨大魔化魍の身体が、頑丈そうな甲殻が、カイザの一撃を受けて見る見る亀裂に斬り裂かれ、あっさりと爆砕してしまったのだ。
「……はぃ?」
『っと。どんなモンじゃい!チョロいモンじゃろうが!』
がっはっはと笑うカイザと、したり顔でうんうんとうなずく花形。
瞳子と騎端は呆然と立ち尽くすしかなく、だがその背後で流星塾の塾生たちが喝采をあげていた。
「うおおおすげえ!」
「さっすが修じゃ!」
「ざまあみさらさんかいあんバケモンが!」
「ええ~と……」
頬を掻きながら呻いた瞳子は、変身を解除して戻ってきた透に問いかけた。
「……ねえ。どういうこと?あれは魔化魍じゃなかったってこと?」
「いや。確かに魔化魍だった。」
特に衝撃を受けた様子もなく透はあっさりと応えた。
「そしてフォトンブラッドが効果を表していた様子もなかった。そもそも当たっていなかったしな」
「……じゃあ、なんで魔化魍が滅ぼせんのよ。」
「ふっふっふ。お嬢ちゃん。それは我が流星塾流の究極奥義のおかげじゃ。」
「いや、黙ってていいよ おっちゃん。」
横から話しかけてきた花形に、完全に胡散臭い顔でしっしと手を振る瞳子だが、花形は一切意に介さずに言葉を続けた。
「流星塾流究極奥義の極意のその一に曰く。「大声で技名を叫びながら殴りつければ威力も増した気になる」、ということじゃ。」
「で、透。なんで魔化魍がやっつけられたの?」
花形を無視して瞳子は透に振り向いた。
「今その男が言った通りだが?」
「は?なに?透までおかしくなった?」
だが、あろうことか透は花形の言を肯定してきた。
「俺は極めて正常だ。そして瞳子。お前の記憶にもあるはずだぞ。音撃道において、「鼓」・「弦」・「管」以外に魔化魍を滅ぼす手段がかつてはあった。」
「は?でもそれって昔に失われた……」
瞳子は「音撃道見習いの自分」の記憶を掘り起こして言われたことを検討していたが、やがてある事に思い至り言葉を失う。
「……あ……でも……まさか……」
対照的に平坦な無表情でうなずく透が瞳子の発想を肯定する。
「そうだ。そこのカイザは「発声」を打撃に上乗せして魔化魍を滅ぼした」
「うそぉおっ!? 」
瞳子はもう開いた口が塞がらなかった。

「……と、言う訳でな。魔化魍とは かような存在だ。」
「ふん。要は根性でヤッツケられると言うことじゃろう!? 」
「……うん……まあ、どうでもいいや。」
透の理路整然とした説明を軽く一蹴した相模原に、瞳子もとうとう説得を断念した。
一同は、まだバケガニを爆砕した跡地におり、状況の説明を行っていた。
「とはいえ、さすがにライダーズギアでもなければ危なっかしくてまともに戦えぬでのう。カイザギアをこっそり借りてきたのじゃ。」
「なにが「こっそり」ですか。ウチのセキュリティを何だと思ってるんです?どういう手を使ったのかきっちり説明してもらいますよ!」
付け加える花形に、人間の姿に戻った騎端が不機嫌に告げた。
「なに、たいした事じゃないわい。そもそもライダーズギアの保管庫のパスコードを知っている者は、ギアの開発関係者に限られるワケじゃろ? そしたら自ずと答えは出るじゃろうが。」
「……は?」
眇に見つめて言い返す花形の言葉に、騎端は何か思い当たったのか、呆けたように口を開けたまま。
だが花形は騎端を放って透の方に目を向けた。
「ちゅうワケで。こないだスマートブレインハイスクールに現れたという異世界の連中とやらを、わしらも待っておった。」
「ほう。」
「なにしろ我が流星塾は山間部に近いところにあるからのう。どういう訳かやたらあのような「妖怪」……「魔化魍」と言うのか。がしょっちゅう出てくるようになってのう。ウチの塾生の身が危なくてかなわん。」
「でもコレどういうこと? 今まで「ひとつの世界」に紛れ込んだのは「ひとつの異世界の脅威」だったじゃん?」
そこに、瞳子が割り込んだ。
「なのに、この世界には今、元からいたオルフェノクと、ファンガイアと、魔化魍までいるなんて。」
「まだ推測の域だが、ディシェッドの目的が宇宙の破壊で、一真の世界でやったように異世界の脅威を移送しているのだとしたなら。宇宙の破壊を確実なものにする為に、二種以上の異世界の脅威を送り込むことはしそうだな。」
「うーわ。初めて見た時から思ってたけど、つくづく陰険なヤツ。」
瞳子はうえっと舌を出した。
「でも、どうすんの? これから音撃道の人たちを連れてくるにしても、その前に一真の世界にここの誰かを連れていかないといけないでしょ」
「うむ。そこで俺はカイザギアを使えるそこの相模原に頼もうかと思ったのだが」
「……? なんだ?「妖怪」が出るところが他にもあるのか?」
「……いや、いい。あんたはここにいて。 って、ああ、そうか……」
つい反射的に却下にしたが、瞳子もようやく気付いた。
協力する気のない巧と、未だ装着者の知れないデルタギアの使い手を待つまでもなく現れたカイザ・相模原だったが、この世界の住人ながら魔化魍に対抗できるその能力は確かに貴重で、相模原をこの世界から動かすわけにはいかない。
対してファンガイアへの対策は、ライダーズギアであればどれでも対処が可能。
となると、残るはデルタギアの使い手のみ。
だが、それはいつ現れるか今のところ不明だ。
「……~、ねえ透。あたし、もう一回 巧に頼んでみる。」
「巧は断ったが?」
「だから、譲歩できる条件を考える。無理はさせられないし。 あのさ透。」
瞳子は、今度は身体ごと透に向き直って真正面から問うた。
「そう言えば最初の「絵描きのあたし」のいた世界も含めて、ここで十個目の世界じゃん? 最初に透が言っていた「接触崩壊する十の世界」は一通りなんとかしてきたワケじゃん? まあ、ここはまだだけど。」
「ふむ。」
「で、透は十個の世界の危機をなんとかしたら、次はどうする予定だったワケ? ほら、「異世界の住人が別世界にいるだけでマズいことだ」って言ってたじゃん。そしたら、脅威になる連中だけじゃなくって、仮面ライダーやってる奴らも元の世界に戻さないといけないんだよね?」
「うむ。そうだ。」
透が鷹揚にうなずくのを見て、瞳子も改めて考えをまとめる。
まったく。論理的思考なんて普段のこの「学生の瞳子」だったら滅多にやらないことだ。他に九つの「自分」の記憶があるからできることだ。
そんな自分への苦情もさて置いて瞳子は続けた。
「それを、いつ、どういうふうに実行するのか教えて。 ほら、巧にお願いするにしても、短時間だけでいいってことにすれば、聞いてくれるかもしんないし。」
「ふむ。」
透は、あごに手をあてて思案する素振りを見せた。そんなポーズに意味があるのかどうか瞳子には分からないが。
「いいだろう。説明しよう。」

「十の世界全ての「裏面」にあたる場所に、十一個目の世界がある。」
「はあああっ!?」
いきなり出てきた新情報に瞳子が絶叫した。
「なによそれ!? 宇宙同士の接触崩壊の危機だってのに、まさかそんな調子でこれから先うっかり「十二個目」とか「十三個目の世界」とか出てこないでしょうね!?」
「「十二個目」以降の世界にはディケイドも赴いているが、俺には関係ない。」
「あるんかいっ!? ほかにも!?」
瞳子の再三のツッコミも無視して透は続ける。
「その、「十一個目」の世界に、「絵描きの瞳子」の世界を除く「九つの世界」全ての異常を片付けることができるようになる拡張ツールがある。ついでに言えば、「九つの世界」の異常を治めることで、「絵描きの瞳子の世界」の異常も消える。」
「……なんで真っ先にそれを取りに行かなかったワケ?」
「その世界は特殊でな。「九つの世界」全てを通過することが、その世界へ至るカギでもあった。だから俺はいずれにせよ世界全てを通過しなければならなかったし、これまでしてきたことは、言わば「ついで」だ。」
「……はあ。」
いまいち腑に落ちない調子で瞳子はうなずいた。
現在、事情を全て知っている者が透しかいない為、疑っても詮無いことだし、なにより、透がいなかったらどの世界も今頃もっと深刻な事態に陥っていたであろうことも事実だ。
(本人がその「ついで」で挫折しかけたり、あげく死んじゃったりしたワケだもんね)
瞳子にも、透が使命ばかりの為だけに動いていた訳でもないことは分かっている。
「そして、所要時間については正確に定義することは不可能だ。」
「なんでよ」
「細かい理由はいろいろあるが、何より、各宇宙間で時の流れる速度に若干の誤差がある。が、年単位までのずれはない。例えば約一週間単位で巧に協力を要請することは可能か?」
「ん~……」
瞳子は、俯いてしばし考え込んだ。
「そしたらさ、こうしよう? 巧には一週間だけってお願いする。で、こっちは一週間でデルタギアの人を探す。透は一週間したらデルタの人と巧を交換する。」
それを聞いて、透が首を傾げた。
「……一度異世界に連れていってしまえば、巧を交代させる必要はないのではないか?」
「あんたナニさらっと鬼畜なコト言ってんのよ。巧にウソ吐いて、行った先で拗ねられたらあんただって困るでしょ!? 」
「困りはしないが使命は果たせなくなるな。」
もの凄い形相で瞳子が言い募るが、透には通用しなかったようだ。
「だ・か・ら、せめてこの約束は守んなよ!?  んじゃ、あたしは行ってくるから。」
歯を食いしばって言うだけ言い、瞳子は身を翻すと駆け出していった。
「待たんかい!神楽見ぃ!」
「……なによー!?」
だがそこに、唐突に相模原が声をかけ瞳子は振り向かずに返事した。
「お前、バイクで来るようなこんな距離、駆け足であのスマートなんたら言う学校まで行くつもりか?」
「え?」
相模原の不機嫌な声音に、はたと瞳子の足が止まった。

夕焼けに染まるいつもの通学路の途中の河原の土手の道。
長く長く伸びる木々の影や街灯の影、電車が通る陸橋の影の間に、向かい合う ふたつの細長い人影があった。
「……いま……なんて……?」
その影の一方の根元で、唇をわななかせ、巧は決壊しそうな心を押しとどめて、聞き間違いであることを祈りながら、聞き間違いであって欲しいと願いながら問い返した。
儚げに、悲しみに沈んだ表情の由里に向かって。
こんなに沈鬱な由里の顔を見たのは巧は初めてだった。
まるで、背後の夕焼けが透けて見えそうな、溶けて消えてしまいそうな……
「……もう、私のこと、守ってくれなくて、いい、って……言ったの」
頭を打った衝撃に、巧の身体はぐらりと揺れた。
何かが実際に激突した訳でもないのに、ひどい衝撃だ。
それだけではない。足下もおぼつかなくなり、まるで平衡が感じられない。
自分は今、立っているのか立てなくなったのかすら分からない。
世界が、回る。
「…………ど うし て……」
カラカラに乾いて上手く舌が回らない。
世界が回るほどに、世界が巧から言葉を奪ってゆく。
その宣告は突然下された。
寄って立つ自分の中の確かなモノを得たと思ったのに。
これで、これからはしっかりと戦えると思ったばかりだったのに。
守らなきゃいけないモノから勝手に掌から抜け出ていってしまった。
「……さよならっ」
巧の脇をすり抜け、由里はそこから走り去る。
由里を止める為に片手ひとつも動かせなかった。
「……な んで……」
後頭部から突き抜ける、海面のように大きな揺れが巧を襲う。
それはぐらん、ぐらんと平衡を奪い、景色が傾いても、膝が地面を突いても巧はなにも感じることはなかった。
だが陸橋を通過する電車の音が耳に飛び込み頭蓋に反響した。
痛みを感じる心臓なんて、だいぶ昔になくしてしまった。
脈打つ鼓動とも長らく無縁だったから、自分の内から聴こえてくる音の少なさに今更ながら唖然とした。
おかげで頭の中で明瞭にがなり立てる電車の音がやかましい。
「……ゆ り ちゃん……」
心臓を、生命を無くし、そして今、守るべきもの、戦う理由も無くしてしまった。
平衡感覚の欠落に加え、ひどい喪失感までもが巧に襲いかかった。
「……ど う し て……」
いつの間にか、視界は一面|橙《だいだい》の一色に埋め尽くされていた。
それが夕陽に焼けた空だということにすら巧の意識は及ばなかった。
「どうした。そこまでか、尾上 巧。」
どこからか、そんな冷徹な声が聞こえてきた。
なんて冷たい声だろう。耳朶を打つその声音は、身体に染み込み不快な冷たさとなってあごを、背筋を震わせた。
「立て。尾上 巧。 いつまでもそのままなら。そのザマでは私の希望の光には程遠い。」
聞こえる言葉の意味が理解できない。
ただ、その冷たさに巧は震えていた。
「……分かった。ならば私がここで殺そう。 ……変身。」
《スタンディングバイ。 コンプリート。》
その声が言うはずのない言葉に続いて、聞き慣れた音声までもが聞こえてきた。
やがて巧の視界の上から、円と三角を組み合わせたマスクが逆さまに、覗き込むようにして現れた。
その巨大なセンサーは、その先の夕焼け空を透過させたかのように不気味な橙の色をしていた。

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