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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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track.49 カメンライド・シンクロニシティ 彼岸と此岸を繋ぐ歌

夜の臨海公園の遊歩道を照らすものは、立ち並ぶ街灯から降り注ぐ灯りのほか、路面の石畳に等間隔で埋め込まれた淡い灯りが小川のように緩やかにうねるこの小道をさながら夜空の星の川のようにぼんやりと浮かび上がらせる。
空と地上に流れる天の河以外には他に何も見えない暗闇の中を、恭也と初は手を繋いで歩いていた。
どこか透き通るような控えめな微笑を浮かべて、何を語るでもなく、互いに黙したままただ、歩く。
ゆったりとした歩調で、進むことを惜しむように、一歩一歩を楽しむように、同じペースで石畳を、植え込みを、暗闇に浮かびあがる光景を後ろへ、後ろへと送ってゆく。
当然、恭也が体格の小さい初の歩調に合わせているのだが、それでも一歩ずつ同じ方の足を出して進んでゆく様はまるでヴァージンロードを辿る新郎新婦を思わせた。
恭也は彼方を見つめ、初は僅かに俯いて歩いているため、初の微かに赤らんだ顔は見られずに済んでいた。
でも、互いが何を想像し、何を感じているかなんて、ふたりにはもうだいたい分かっていた。
だから恭也は敢えてからかいも気遣いもしなかったし、初も自ら何かを伝えたりはしなかった。
これまでと同じ。共に歩き、互いに互いを想い遣り、前から巡ってくる景色を後へと送ってゆくことの繰り返し。
穏やかな灯りの届く範囲の向こうから、緩やかにうねった小道が右に、左にと身をくねらせながら現れる。
それがどこまで続いているかなんて、二人は考えもしていなかった。
望むことは、ただひとつの同じ事。
(このまま、今がずっと続けばいい。)
いずれ   が来ることなんて、そんなこと、理性では分かっていた。
だけど、今はそれを意識から締め出していた。
特に今だけは必要のないことだから。


その知らせは突然だった。

(透が、迎えに来る、って。)

恭也と初を前に、努めて平静に振る舞おうとしてむしろ無表情に強張ってしまった瞳子に、恭也も初も「わかった」とだけ応え、決して狼狽えたりはしなかった。
ただ、瞳子の不器用な気遣いに胸中で感謝した。
正体が「ジョーカー」である初の生存権の為に尽力し、恭也が安心するに足る信頼の根拠を確立する為に瞳子がどれだけ奮闘したか、初も恭也も知っている。
いずれ訪れる別れの時の為に、恭也も初も瞳子も「今」を一生懸命に、大切に過ごしてきたのだ。


初は、ジョーカーだ。
本来は無慈悲な闘争本能の権化であり、それ以上でも以下でもない存在だった。
だが他のアンデッドを封印し取り込んでから、特に人格に影響を与えたヒューマンアンデッドが人間の雌の幼体の姿をしていた為に周りからも「少女」として扱われ、本人のパーソナリティーも無意識に少女としての人格に馴染んでいった。
その姿の設定年齢から「人間」を突然始めるかたちになった初は、恭也に限って時折り顕れる自身の内の反応に当初は戸惑っていた。
それが時を経るにつれ形を成してゆくごとに、初は冷静に自身の想いを受け容れ、そして同時に恭也のそれが初のものとは違う種類であることを理解してしまった。
(男の理解能力の鈍重さは、余りにも度し難い。)
かつて関わった全ての人類女性の「男性に対する認識」を統合した結果、初はそう結論付けていた。
同時に、自分が人類女性の中では比較的理解のある方だというカテゴライズも済んでいた。
そもそも本物の人間の女は、こんなことまで滅多に認識しないし、考えもしないものだが。
そんなことを考えて、初は軽く頭を振ってその思考を追い払った。
(こんなわたしを、恭也は大事にしてくれた。)
そして、そんな恭也を大切に思う。
それだけで充分だ。
でも。
これだけ自己分析を重ねても、自覚できない情動が、胸の内に蠢いている。
恭也がいる内にそれの正体を掴めないことが残念だった。
あともう少しで分かりそうなのに。
もし。それの正体が知れた時。
恭也は自分を怒るだろうか。見放すだろうか。
愚問だ。そんなこと、あるはずがない。
ただ、恭也は困るのだろうな、と初は直感していた。


やがてふたりは同時に足を止めた。
道の終わり、石畳の途切れた向こうをまたいで通る高架の下の薄暗がりに、透が立っていた。
意識から締め出していた「おわり」の三文字が、とうとうそこに現出した。
「……。」
「…………」
ふたりは、そっと手を離した。
「……じゃあな。」
いつもの口調で、いつものひねくれた笑顔で初を見返して恭也は歩き出した。

初の為に、恭也は極力「いつもどおり」を心掛けた。
自分を信頼し懐いてくれた初に、別れに際して少しの衝撃も残したくはなかった。
なにも大仰に別れの挨拶をすることもない。
そんなことをしたら、別れられなくなる。
だから、できる限り当たり前な顔をして立ち去るつもりだった。
初もそれを理解してくれていると恭也は考えていた。

だから、突然うしろから手を引かれて呆気なく体勢を崩し、頬に受けた小さな花びらを押し当てられたような感触に戸惑い、小さな両手に突き飛ばされて簡単に転倒し、夜闇の遊歩道をひとりで駆け戻ってゆく初の後ろ姿を間抜けに見送ることしかできなかった。


やがて予定の地点の大木の陰に駆け込んできた初を、瞳子は優しく抱き止めて迎えた。
途端にわんわん泣き出した初の頭を何度も何度も撫でてやる。
(……こちとら男の浅知恵なんか とっくに見透かしてるっつうの。)
初の頭を撫でながら、瞳子は白けた顔で恭也を胸中で罵った。

全身に滅茶苦茶に殴りつけられた跡を残した、有り体に言ってボッコボコになった相模原の変死体を動かないように踏みつけながら。

「……む、むう。なんじゃこの神楽見の強さは……むぎゅ」
瞳子は白けた顔のまま、足首をぐりっと捻った。

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テーマ:仮面ライダー - ジャンル:サブカル

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