FC2ブログ

ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

track.57 ディレイデッド・龍騎・アギト

◆龍騎の世界◆

「あぁ…… なんっかズキズキする…… ような気がする……」
無機質な拘置所の独房の床で、男は額を押さえて呻き、寝返りを打った。
露わになった簡素な衣服のはだけられた襟元の下には、顎から首、喉元を越えて恐らく胸まで続くであろう、一部赤黒く爛れた色の肌が見えていた。
深い火傷の痕。
それは額を押さえる手にも、腕にも足にも至る所に点々と存在していた。
そして、どかした手の下のその素顔の半分にも。
「……気のせいだよなあ。痛ぇワケねえもんなあ……」
気だるい様子で腕を投げ出して寝転がる。
その時、何かガラスを撫でるような薄く高い共鳴音のような音が聴こえてきた。
『字倉 威だな?』

「あ?」
突如、有り得ない方角から名を呼びかけられ、男・・字倉 威は気だるげに首だけ上げてその方向を見た。
この部屋の出入り口は一カ所しかなく、声が聴こえてきたのはその反対側。
三方を厚い壁で囲まれたこの部屋には、出入り口の他に声をかけられる場所などないのになぜ。
などとまで字倉は考えない。
人間らしい論理的思考など、「あの時」から忘れてしまった。本能と直感にのみ従い、刹那的な生命の綱渡りを勢いに任せて突っ切ってきたのだ。

「恐怖」とか「訝しむ」とかいう反応を示す前に、見た瞬間に何もかも壊してしまえばいいのだから。

だから、部屋の奥に見知らぬ若い男が突然現れていても、字倉はそれほど大きな反応は示さなかった。
「……なんだてめえ」
『知らなくていいよ。どうでもいいことだろ?』
字倉よりは年下だろうが、十代には見えない。
だが、その口調はまるで十代のチンピラのようだった。
『これ、知ってるか?』
言って男が付き出した紫色の四角いプレートを、目に認識した瞬間に激昂した字倉は跳び起きて男に殴りかかった。
「っらああッッ!」
だが肉迫した時には男の姿は掻き消え、拳は虚しく空を切った。
「!? 」
『やめろよ。俺、そこにいねえから』
字倉は相手の言うことなど聞いてはいなかった。
いつの間にか背後にいた男に向けて再度殴りかかる。
「っらあッ!」
『お前の目に映る位置に結像して姿を見せてるだけだからさ。 ……まあいいや、そのままハナシ聞けよ』
「うらあっ!」
全く言うことを聞かずに遮二無二あたりを殴り続ける字倉に呆れたように、男は構わず語り出した。
『まあ、ムカつくよなあ。お前をここに放り込んだ裁判員の証だもんなあ。 どれの判決が適用されたんだかは知らねえけど』
「……」
そうだ。野良犬のように生きてきて、ある日突然警察に拘束され、もう自分のやったどの事について訊かれているのかも分からない話の末に「仮面ライダー裁判」とやらにかけられ字倉はここにいるのだ。
なにはなくともその「仮面ライダー裁判」の裁判員の連中は、仮面ライダーはどいつもこいつも叩き潰して真っ平らにしてやらねばこのムカつきは収まりそうにない。
『だからさ。これ、やるよ』
だが、あろうことか男はその裁判員の証を、カードデッキを汚い布団の上にぽん、と放り投げてきた。
「……あ? 阿呆か?」
さすがに殴るのをやめた字倉が、首を傾けて吐き捨てた。
「俺が裁判員になれるワケねえだろうが」
『阿呆はお前だろ。ソレがなんだか分かってんのか?』
互いに射殺せそうな視力戦の応酬を繰り広げながら男は言い返す。
『事情が変わったんだよ。「仮面ライダー裁判」はもうヤメだ。 そんで、もしそれが用済みの警察官の拳銃かっこ弾入りだとしたら、どうよ』
「……」
ようやく事の次第が見えてきたのか、字倉の目つきに喜色が浮かび始めた。
『ミラーワールドに出入りできて、仮面ライダーのパワーを法的制約ナシで自由に扱えるとしたら。』
「……フン。おもしれえ」
字倉はその紫のカードデッキを拾い上げた。
「いいのか?本当に」
『好きにしろよ。お前の邪魔をできるのも仮面ライダーだけだ。』
「……フン。」
にやり、と字倉の顔に狂気の笑みが浮かんだ。


鳴り響く拘置所の警報に慌ただしく駆け回る多数の警備員の靴音が入り乱れ。
字倉 威の独房が空になっていたのを知った彼らの騒ぎはまた一段と大きくなった。
いずれにせよミラーワールド側から脱獄を果たす『王蛇』を阻める者などこの施設には存在しない。
その様子を眺めて、神鳥 士郎は仄暗いひきつった笑みを漏らしていた。
『そうだ。残りのやつらのバトルを引っ掻き回してやれ…… ……まだ決着をつけられちゃ困るからな。 ……ん?』
その気配を、士郎は敏感に察知した。
振り向けば、道路の先に立てられた反射鏡からこちらをじっと見つめる少年の姿があった。
さらさらの長い髪で美しい面立ちの半分を隠した、線の細い感じの少年。
しばらく前から現れたミラーモンスターではない謎のモンスターの出没に併せて神鳥 士郎の周囲をうろつくようになったその少年が、どうも人間ではないことにはなんとなく勘付いていた。
『……ち。しつこい奴だ』
今の自分に危害を加えられる者など存在しないはずだが、士郎のことを認識しつつ、何度ミラーモンスターをけしかけても、いったいどうやってか時を置いて再び現れるという不気味で厄介な存在だった。
士郎はミラーモンスターを数体、その少年を襲うよう命じて解き放つと、さっさとその場から立ち去った。


◆クウガの世界◆

「さて。」
ひかりの、いつもの感情の薄いフラットな声が風に浚われて消える。
ここは、普段ならば大量の自動車でごった返す高速道路の入り口。
だが今は警察により一時封鎖されており一台の車もおらず、無人ゆえいつもより広大に見える壁に囲まれたスロープが緩やかに彼方へ伸びてゆくのが良く見える。
その幅広のアスファルトの道路の真ん中に、真司と、ひかりと、そして車椅子に座った瞳子はいた。
背後に、彼らを運んできた大型バスが控えている。
そのさらに向こうには、この高速道路に至る道を警察官と車両と看板が立ち塞いでいる。
「手順の最終確認。」
言って ひかりがクリップボードを取り出したのに合わせ、真司もそちらに向き直る。
「この高速道路は全長約40キロメートル。真司君は変身してミラーワールドに入ったら、すぐにライドシューターを乗り捨てて。駆け足で全力疾走すること。ライドシューターの速度だと5分足らずで終点に着いちゃうから。」
ひかりがすらすらと読み上げる内容に真司はうなずいて返す。
「「リューキ」のミラーワールドでの活動限界時間は9分33秒。以前の計測結果によると「リューキ」は100メートルを5秒で走るから、9分半もあったら11キロメートルは軽い。」
手元のクリップボードに目を落とし、淡々と続ける。
「この高速道路には、1キロメートルごとに距離の数字を書いた旗が立ててあるから目印にして。 デッドラインは5キロメートル地点。つまり半分。半分まで来たら、そこが最後の分岐点。真司君自身が、行くか戻るか決めて。そこを越えたら周りは緑しかない山岳地帯。もう鏡のある場所には戻れなくなるから。」
「……ん。」
真司は、真剣な眼差しで力強くうなずいた。

ミラーワールドの「到達不能点」とは、「ミラーワールドにおいて、全ての鏡から最も遠い地点」のこと。
そしてもう一つ。
「仮面ライダー」の活動限界時間で辿り着ける距離の「向こう側」。
当初、ひかりが抱いていた「龍騎」のシステムの疑問のひとつに「なぜ活動限界時間があるのか」というものがあった。
「……水ん中に潜るのに酸素ボンベを使うみたいに、ミラーワールドにいる為に必要な何かがカードデッキに付いてるんじゃないスか?」
「だとして、スキューバダイビングならスペアのボンベを持ち込むことで活動時間を増やすことができる。 これの制作者は、これほどの技術を持ちながら、なぜそれをしなかったのかな。」
「……裁判の効率化?」
「真司君の世界の裁判制度はツッコミ処が満載だからいちいち言わないけど、むしろ決着が付かないで次回に持ち越すことが多かったとも言ってたよね?むしろそれは非効率。」
「うん。まあ。」
「となると、考えられる理由がひとつある。 「9分33秒で辿り着ける所より先が何らかの理由で立ち入り禁止である」という可能性。 この場合の「到達不能点」は、全ての鏡から最も遠く離れていて、かつ観測者が世界を認識できる限界時間以降の世界のこと。「観測者」っていうのは真司君のことね。量子論は真司君には難しいから詳しい説明は省くけど、とにかく行ける限りの距離と時間の向こうに、「何か」があるかもしれない、ってこと。」
そのひかりの推測に則って、真司は「ミラーワールドの到達不能点」にその謎を解く鍵を求めたのだ。

「……真司君。」
放り上げたカードデッキをキャッチした真司は、呼びかけた車椅子の瞳子を振り返った。
「なに?」
「……やっぱり、透を待とうよ。真司君が命賭けることないよ」
瞳子はまだ立つことも難しい状態だが、しゃべり方はだいぶ落ち着いてきたようだった。
「いやあ。命懸けってんなら、この世界みんなそうでしょ。」
くるりと振り向いた真司は両手を広げてあっけらかんと宣った。
「いくら鏡を塞ごうったって、意外とツヤツヤした物って多いし。そしたら、ミラーモンスターに怯えて暮らすのと、こっちから攻めに行くのって、そんな大差ないし。」
「……でも。」
瞳子はなおも言い募ろうとしたが、真司のどこか気迫の溢れる笑顔を見て言葉を失った。
「俺、カメラマンだからさ。ファインダー覗いてても、だからこそこの世で起こる何もかもが、どっか遠くの出来事なんかじゃなくて、自分と地続きの世界の現実なんだっていつも思うんだ。だから、自分の世界のこと、もっとちゃんと知ろうと思って雑誌の仕事やってんだ。みんなにも、それを知って欲しくて。それで写真撮ってる。」
照れくささが浮かんだ笑顔に、僅かに真剣な色が混じる。
「だから、できるだけ自分に出来る事は躊躇しないようにしたいんだ。 それに、俺たちチームの頭脳が出した提案だぜ?俺はただ死にに行く訳じゃない。その可能性を拾いに行くんだ。」
言いながら真司が手招きしたのに合わせて、ひかりが傍らに立てた板にかかった布をはぐって姿見の鏡を露出させた。
そちらにカードデッキを向けてかざすと、鏡に映る真司の腰に出現した金属質のベルトが現実世界の真司の腰に転移して現れた。
「それと、多分、透のこと待ってられないと思う。急がないと」
「……え? なんのこと?」
問い返す瞳子には応えず、真司は鏡に向き直ると右手を左斜め上にびしりと突き出した。
「変身!」
叫び、右腕を振り下ろし上体の捻りを戻す動作で左手のカードデッキをベルトバックルに装填する。
途端に無数のヴィジョンが殺到し、真司の体は赤地のボディスーツに黒と金属色の軽装甲に包まれ、バーゴネットのマスクを纏った仮面ライダー 龍騎に変身した。
『じゃ、行ってくる!』
「真司君!? ちょっと」
瞳子の制止の声にも応えず、龍騎はひかりの傍らの姿見に飛び込んで消えていった。

ミラーワールドの境界に飛び込んだ龍騎の身体はまず、いつの間にか二輪の次元転送機『ライドシューター』のシートに座った状態で出現する。
ライドシューターは、二輪車の構造を持ちながらシートの幅は身体より広く、フロントから大きく弧を描く戦闘機のキャノピーのような天蓋が後ろまで覆い尽くし、背もたれが後方に傾斜したそのインテリアはまるで一人乗りのマイクロカーのようである。サイドにドアがないことで かろうじて「バイクである」と思わせる。
このマシンに乗せられて、ディメンションホールを通過し現実世界からミラーワールドへと渡るのだ。
そして姿見の表面から、左右が反転した無人の高速道路に飛び出したライドシューターは、だが予定の地点で停車することなく、龍騎の加速の操作によって高速道路の彼方めがけて疾走していった。

「ちょっ……!? 真司君!? なにやってんの!? 」
鏡の向こうに出現したライドシューターが、停まるどころか加速をかけて見る見る遠ざかってゆくのを目の当たりにして瞳子が車椅子から身を乗り出し転倒した。
「やめなさい! それじゃ、本当に戻れなくなっちゃう!? 」
間違いない。真司は、ひかりの仮説の条件を確実なものにする為、「到達不能点」に辿り着く為に自ら退路を捨てたのだ。
あの速度では、もう二度と唯一の鏡があるこの地点まで戻ってこれないだろう。
「真司君! 真司君!? 」
普段から冷静なひかりまでも、姿見にしがみついて真司の名を叫んだ。
「ひかり!すぐに車を呼んで!鏡を持って真司君を追うの!」
「でも、あの速度じゃあ……!? 」
「いいから!少しでも近づくの!」
うなずいたひかりは、すぐさま携帯電話を操作して入り口を封鎖しているパトカーを呼び寄せた。
「……あのバカ、なんであんな無茶を……」
瞳子は道路に倒れたまま鏡の中を遠ざかる後ろ姿を睨み付け歯噛みしていた。

関連記事

テーマ:仮面ライダー - ジャンル:サブカル

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://lwisfgarden.blog.fc2.com/tb.php/73-b63d54c0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。