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ルィスフガーデン

鏡よ鏡。もう少し手加減しておくれ。自分の美しさで目が眩んでまともに鏡も見られない。

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track.63 ディレイデッド・アギト・キバ

◆ unknown spot ◆

「……女。次の世界へ案内しろ」
「……」
そこは『いくつもの宇宙』を見下ろす『宇宙の外側』とでも呼ぶべき場所。
足場も不明ながら全く意に介さずに立つ痩身の男が、傍らでぐったりと突っ伏している赤のビジネススーツの上に白衣を纏った女の襟を掴み上げて冷徹に告げた。
男の名は「禁欲家と左足だけの靴下」。今は人間の姿に化身しているが、その本性はファンガイアであり、一族の中ではトップのキング、クイーンに次ぐ地位のナンバー3『ビショップ』と呼ばれている。
その男が数体の配下のファンガイアを引き連れ、宇宙間を移動できる能力を持つ女を使い今まさに他の世界へ赴こうとしていた。
『はぁ~い☆ ちょっとまってぇ~♪ ストップストップ~☆』
そこへ、宇宙外の空間にありながらぱたぱたと形而上の音を立てながら、人間の掌よりも小さなコウモリが飛来してきた。
『そっちは行かなくていいのよ~♪』
『キバーラか。』
ビショップは平静な顔のまま、そのキバット族を呼んだ。
『キバット族ごときが何用だ? 私は一族を守る自らの使命に従い、領地拡充の任務中だ。私の行き先に口を挟むな。』
『あらつれない。』
蠅でも追い払うように振られたビショップの手を軽やかに躱しながら、変わらず戯けた調子で続けるキバーラ。
『でもぉ、ばんばんクチ挟んじゃうわよぉ~♪ そっちは行かなくていいわ。「クウガの世界」はぁ、いま仮面ライダーが不在だから、いつでも制圧できちゃうからもう手に入れたも同然なの☆ だから、あっちの方から先に行って♪』
仮面ライダーが不在ならば好都合ではないか。なおさら後回しにする意味がない。』
これから赴こうとしていた方を塞いで別方面を指し示すキバーラに、ビショップは顔をしかめて反論した。
『そこをどけ。長くは構ってやれん。』
『あら。アタシの言うことが聞けないの?』
その時、キバーラが微かに不機嫌な声を発した。
『確かにあなたは「ファンガイア族」だけどね。アタシもアタシが従ってるのも「マスター」なのよ。』
『!? 』
キバーラの纏う気配の変化に気付いたのか、ビショップの顔色が僅かに変わった。
いつの間にか、掌よりも小さな体躯がこの場にいる全てのファンガイアを圧倒していたのだ。
『テメエら「フォース」ごときがこのアタシを従わせるだなんてどんだけ身の程を知らねぇんだ!あぁ!? 』
突然がらりと口調を変えたキバーラの啖呵に、配下のファンガイアどころかビショップまでもが恐怖に竦み上がった。
『「フォースクウガ」はお出かけ中だからぁ、「クウガ」にゃ手ぇ出さなくていいよ~♪ってアタシが言ってんだからテメエらはとっととアッチ行けやコラア!!』
『うわあああ!? 』
『ひぃいいいい!? 』
慌てふためいて配下のファンガイアが腰を抜かす中、キバーラから溢れ出たオーラから白銀色の「キバの鎧」が飛び出しビショップの喉首を掴んで押し倒した。
『ぐっ!? 』
地面など存在しないはずだが、ビショップは「足場」に叩き付けられて苦悶に呻いた。
『んん~~?分かったら「ハイ」はあああああ?』
『……ぐ……わ、わか り ま し た……』
『そこで「ハイ」って言ってくれたら可愛いんだけど。まあいいわ』
呆れた声と同時にビショップの喉が解放され、白銀色の「キバの鎧」は立ち上がるなりその姿を消した。
『ほらほら。分かったらさっさと行った行った!』
しっしと翼を振るキバーラに追い立てられ、ビショップらファンガイアは女・・震を引き連れて指し示された宇宙へと消えて行った。
『……ふう。やれやれ、手間のかかること。アタシってば、どんだけサービスすれば気が済むのかしら。あぁあ。』
何者もいなくなった空間でひとりごちたキバーラは、ひと打ちはばたき旋回するとその場から姿を消していった。


◆アギトの世界◆

『うああああああ!』
『ーーーーッ!』
ウィブの拳と、鷹のような面相の「風のエルロード」の弓のような剣戟が交錯する。
ベルトから等間隔に生えた八本のロッドチェーンをまるでロングスカートのように翻して放たれた回し蹴りをエルロードは軽やかに宙を舞ってやり過ごし、代わってその身が宙にある内に弓から放たれた颶風の矢が連続後方宙返りで後退するウィブのあとを追って次々と地面を抉る。
『はッ!』
ウィブが、傍らにある自らの「糸」を鋭く引いた。
ウィブはスパスパイダーが生成する「糸」を戦闘中に辺りに張り巡らせることを基本戦法としている。「糸」で物理的な結界を形成し、場合によって「糸」で相手の動きを制限し、あるいは封じ、あるいは自らの空中での足場とする。
今の操作で空中にいるエルロードめがけて無数の「糸」が縦横に走って殺到したのだが、エルロードはその面相にふさわしく空中で軌道を変えてそれらの「糸」を回避してしまった。
『チッ。やるわね。やっぱそこら辺のアンノウンの雑魚とは格が違うってこと!? 』
吐き捨ててウィブは改めて「糸」を周囲に展開した。
この林の中にあっては、空間を三次元的にフル活用できるウィブのホームグラウンドである。
いかな空飛ぶ生き物を模したアンノウンといえど、ここは「蜘蛛の巣」も同然なのだ。
『囚われの餌の分際で、いつまでも逃げられると思うなあッ!』
再び宙に浮かぶエルロードめがけて飛びかかる。
エルロードは迅速に飛翔しウィブに向かって矢を放つが、ウィブは木々に張り渡した「糸」を蹴って空中で軌道を変えて回避。そのままジグザグに跳躍を繰り返してエルロードに飛びかかった。
『やああああああ!』
『ーーーッッ!? 』
回り込んだ真上からエルロードを蹴り落とし、地面に激突したエルロードの身体が大きく跳ねた。
『はああああ!』
ウィブは止まらず枝を蹴って地上のエルロードへと急降下を仕掛ける。
だがさすがにエルロードもこの程度では動きを止めない。すぐさま別方面へ飛び上がると、あろうことか明後日の方角へと矢を放った。
『どこを狙って……ああ!? 』
戦場の配置を一瞬で思い出したウィブは矢が放たれた先を振り返った。
その遠い先では、たった今、矢の直撃を受けたアギトの身体が大きく跳ねた所だったのだ。
『動けない翔一に、なんてことを……!? 』
怒りに視野が赤く染まる。
臍を噛んだウィブは今すぐ駆け付けたい衝動を抑え、エルロードに向き直った。
『貴様アアアアアッ!』
『ーーッ!』
だが、それと同時に放たれた矢が既に回避不能な所まで迫っていたと見るや、胸郭に凄まじい衝撃を受けウィブは跳ね飛ばされた。
『ッガッ!? 』
地面を転がり、樹に激突してようやく止まった。
『くっ!? くそったれえええええ!』
『遥!落ち着け! こういう奴にはアレだ!』
起きあがったウィブはポーチから無数の蛇に囲まれた女性の顔を刻印されたフエッスルを引き抜くと、それをベルトバックルに鎮座するスパスパイダーの口元にあてがった。
『メデュテシールド!』
きゃらきゃらと甲高いざわめきのような笛の音が鳴り響くと、どこからともなく飛来してきた人間の頭大の女性像が、ウィブの元へ到着するなり展開変形し、無数の蛇に囲まれた女性の顔を模した小振りな盾となると、ウィブはそれを左手で掴み取った。
途端に左腕と胸郭が蜘蛛の糸に包まれて弾け飛ぶと、その下は紫色に染まっており、マスクのセンサーとスパスパイダーの瞳がメデュテヴァイオレットに輝いた。
これがウィブのフォームチェンジ機構のひとつ。魔の眼光で生き物を石に変えて喰らう魔女・ゴーゴン族のメデュテの力をウィブの葬衣に付与した「ウィブ・メデュテフォーム」。
『さあ。イイ子だから、おとなしく横におなりなさい!』
性格の影響を受け僅かに口調を変えたウィブが盾をかざすと、その表面に彫り込まれた女性の顔の瞼がカシッと開かれ、中の瞳から禍々しい光が溢れ出した。
その間も木々を飛び回るエルロードはウィブに矢を放ち続けていたが、どれもこれもウィブの体表で弾き返されていた。
「ウィブ・メデュテフォーム」は防御に優れた特性を持つ。装甲は強度を劇的に増し、この程度の攻撃などものともしない。
そしてメデュテフォームの真価はこれだけではない。
盾から溢れる光を辺りに放射し続ける内、エルロードがついに失速して地上に墜落してきた。
『ハッ。ざまーみろだ!』
ベルトからスパスパイダーの罵声が飛ぶ。
エルロードは、己の身に何が起こったのか分からぬかのように怪訝な様子で身悶えしていた。
メデュテシールドの瞳から発せられる光線は、まさしくゴーゴン族の能力の通り効果範囲にいる者の身体を麻痺させる効果がある。
今は武器の姿に封印されているため石化とまでは至らないが、スパスパイダーの活性化によって本来の力を発揮することも可能。
だが、今はとどめを刺している暇はない。ウィブ・メデュテフォームはメデュテシールドの瞳を閉じると麻痺したアンノウンを放って慌ててアギトの元へ駆け寄った。
『翔一!? 翔一!』
そこでぐったりと倒れ伏しているアギトの身体は至る所がひびで埋め尽くされ、胸の真ん中に続き脇腹にまで大きな穴を開けていた。
『翔一!? ああ、なんてこと……』
慌てて駆け寄るも、ウィブには手の施しようがない。
時折、ぴくりと震えている為、まだ死んではいないだろう。
死んではいないが、これがいつまで保つのか分からない。
『もう!? どうすればいいいのよこれ!? ……そうだ、警察の病院に、似たようなのが担ぎ込まれてるって前に……』
『遥っ!うしろっ!』
スパスパイダーの警告に振り向いた時には、いつの間にか背後に忍び寄っていたG4が超振動ソードを振り下ろしてきたところだった。
『があああああ!』
『ああっ!? 』
まるで獣のように吼えるG4の刃をもろに胸郭に受けたウィブだが、その身はびくともしなかった。
メデュテフォームの装甲強化はまだ継続しているのだ。
大げさに叫んでしまった事にマスクの下で顔を赤らめながらウィブは姿勢を立て直した。
『ちょっと!シールの笛止めるなって言ったでしょ!? 』
『いや、仕方ないだろメデュテシールドは必要だったし!? 』
言い合いながらも、なおも刃を振り回してくるG4をいなして蹴り返す。
『あんたも大概しつこいわね。ネタは知れてんのよ!? そいつをぶっ壊さないとわかんないってんならそうするけど!? 』
『……はあっ、これがファンガイアの能力って訳!? インチキにも程がありますね!』
『あんたに言われたくないわよ! ってことは、やっぱそれってロボットなワケ?』
『先ほど言いましたよ。これは「強化外骨格」。そして私は|憑依能力者《ポゼスト》。 この中には、深海 史郎、私の恋人の死体が入っている!』
『!? 』
己の胸を押さえたG4の叫びに少なからず衝撃を受けるウィブ。
『全ての異形の者どもを駆逐しなければ!彼の命は報われない!だから私は止まる訳にはいかないの! |GX-052《ジークスオーフィフティートゥー》!!』
《ケルベロス・カスタム。コード。》
『うわああああああ!? 』
G4は暗証番号の要求を無視して大腿部からガトリングガンを引きちぎり、それをこちらへ差し向けてきた。
『くっ!? 』
ウィブはとっさに盾を正面にかざすのではなく両腕を大きく広げて身構えた。
守るべき翔一が背後に横たわっている。一歩もここを退く訳にはいかない!
そして束ねられた銃身が高速回転し、毎秒30発の弾丸が雨霰とウィブの身体に降り注いだ。
『がああっがあっああああぁあああああ!? 』
だが、G4のガトリングガンに装填されていた弾丸には全て銀が織り込まれている。いかに硬いメデュテフォームといえど、「魔」は「銀」の前では著しく力を殺がれてしまうのだ。
装甲を突き抜けてくる無数の衝撃に、遥はマスクの下で絶叫した。
『遥っ!? ダメだ!もう保たねえ!』
メデュテシールドが吹き飛び、フォームチェンジが解除されたウィブは鎧を粉々に砕かれながら吹き飛ばされていった。
「ああああああああっ!? 」
そして守る者がいなくなったアギトの身体を無数の銃弾が蹂躙する。
さながらホースで撒かれた水に蹴散らされる屑のごとく、斉射を受けて土の上をごろごろと転がるアギトの身体。その途上で脱落した体組織があちこちに散らばってゆく。
「しょういちーーーーーー!」
『あっははははははははは!』
遥の絶叫と、G4の狂喜じみた哄笑が重なって響いた。
やがて斉射を終了し機構が動作を止めると、林の中に静寂が戻り動くものが何もなくなった。
『あ……あ……』
うつ伏せで見つめる遥の目の先には、もはや動かぬ「アギトだったもの」が転がっていた。
『あは、あはは、これで……』
取り憑いているだけのくせに肩で息をする動作をするG4は、脱力したかのようにガトリングガンを取り落とした。
『これで、史郎の任務は……  ……!? 』
だが、G4の怪訝な沈黙と同時に遥は事の異常に気付いた。
辺りには、黒こげになったアギトの体組織の破片が散らばっている。あれほどひび割れていたのだからこれくらいの量にはなるだろう。
だが。
あそこで倒れているアギトの身体は、あれ程の弾丸を喰らいながらも四肢五体をそろえているように見えるのだ。
「……これは……?」
やがて、訝しむふたりの見ている前で、アギトだったものがのそりと蠢き、肘を、膝を立ててゆっくりと起き上がった。
『なに……!? 』
「翔一……?」
立ち上がったそいつは、見る見る内に身体を変色させ、まるで羽化する昆虫のように新たな姿を形成した。
それは、形状はアギトに酷似しているが、金色だった角や胸郭、各部が全て燃え上がる炎のように真っ赤に染まっていたのだ。
「……なに……あれ……」
『ーーーーーーーーッッ!!』
そいつは突如咆哮を上げた。
それはまるで獣のようだった。人の理性を感じさせない動き。
やがて前方を、G4を見据えたそいつは野獣さながらの動きでG4に襲いかかった。
『くっ!? こいつは!? 』
『ーーーーーーーーッ!!』
そいつは両腕両足でG4にしがみつくと、呆気なくG4の巨体を押し倒した。
跳躍地点の地面が大きく抉られている。それほどの爆発力のある跳躍だったのだ。
そして馬乗りになったそいつは、哮る勢いのまま両の拳を何度も何度もG4に振り下ろし始める。
『ーーーッ! ーーーッ!』
鈍い激突音と、獣の唸り声が断続的に響く。
そしてG4の両肩に両手をつくと脚を高く振り上げ両膝をG4の腹部に叩き付けた。
『ーーーーーッ! ーーーーーッ!』
『やめてえっ!? な、なんなのよこいつはっ!? 』
飽き足りないのか、そいつはやおら立ち上がるとG4の足首を掴み上げ、片手で難なく振り上げると反対側の地面に叩きつけた。
砕けた土塊が飛沫のように飛び散った。
『ーーーーーーッ!』
『ああっ!? や、やめ』
『ーーーーーーッ!』
そしてまた反対側へ。
見るからに決して軽くないG4の巨体をそいつはまるでずだ袋のように軽々と振り回してみせた。
何度叩きつけただろう。辺りの地面が残らず抉れ、あちこちの部品を脱落させたG4を、そいつは今度は水平に回して投げ飛ばした。ジャイアントスイングだ。
冗談のように長距離を飛翔した黒い巨体は、遠くの大木に激突するとなす術なく地面に落下し、それきり動かなくなった。
『ーーーーーーーーーッ!!』
なおも吼えるアギトだったもの。治まり切らないのか、有り余る力を吐き出すように辺りの木々を腕のひと振りでなぎ倒して回っている。
「……でも、あれじゃ自分も壊しちゃう……」
アギトが変化したそれのパワーが凄まじいのは分かった。
だが今のそいつには、己を制する意志というものが感じられない。
その力は決して無尽蔵という訳でもないだろう。どこかで誰かが止めてやらねば今度こそ死んでしまうに違いない。
「……止めなきゃ」
遥は残りの力を振り絞って立ち上がると、そいつの元へ駆け出していった。
『おい!遥!さすがにありゃやべえんじゃねえか!? 』
「だから止めんのよ!」
『いや、危ねえのは遥のほう……』
スパスパイダーの忠告も無視し、遥はそいつに駆け寄った。
「ちょっと!翔一!しっかりしなさい!」
『ーーーーーーーッ!』
だが、そいつは遥をも木々と同様に殴り飛ばした。大きく吹き飛ばされ木に激突してしまう。
「っ!? ……わたしのことも分からないの!? 」
激痛と失望に顔をしかめる遥。
だが、このくらいで諦める訳にはいかない。
翔一を、死なせる訳にはいかないのだ。
「ふざけんじゃないわよ!」
叫び、再び遮二無二掴みかかってゆく。
『ーーーーーーーーッ!』
激しく腕を振り回されるが、今度は懐に入り込みしっかりとしがみついた。
「あんたね!あれだけわたしに色目使っといて今さら忘れただなんて、ダメな男だとは思ってたけど絶対に許されないわよ!分かってんの!? 」
『ーーーーーーーッ!』
そいつは大きく身を捩るが、しっかりと組み付いた遥は振り飛ばされない。
「この罪は重いからね!? キッツいお灸を据えてやるから、まずは正気を戻しなさい!」
なおも上体を振り回すそいつ。
さすがに遥の足が浮き上がり、振り回され脇腹から樹に激突してしまった。
「っぐっ!? ……伊達にウィブの紋を背負ってんじゃないのよ! 捕らえた獲物を、簡単に放すものかあッ!」
そいつの身体に回した腕を組み直し、燃え盛る炎のようなマスクに顔を近づけるとそのセンサーを睨み付ける。
「絶対に生き延びてやるんでしょ!? しっかりしなさいよ! これで目を……」
そして両手でしっかりと顔面を固定し。
「覚ましなさい!」
そいつのマスクに口付けた。

人間で言えば、人口呼吸にあたる。
アギトの口元に当てた遥の口腔から、遥自身の魔皇力が注がれてゆく。
ファンガイアであれば他者を賦活する行為であるが、それが異種族にも効くかは分からない。
だが、形は違えどエネルギーには変わりはない。少なくとも毒ではないはずだ。
異なるエネルギーの流入を受け、戸惑うかのように身動きを止めたそいつは、ただ遥の包容と接吻を受け続けていた。

「…………はぁ、」
やがて唇を、身を離した遥は、すっかりおとなしくなったそいつを眺め遣った。
「……どうなのよ、翔一……」
返事は、ない。
だが、胸郭は僅かに上下している。呼吸はしているようだ。
だから、その突然の変化に遥はぎょっとした。
そいつの胸郭が、またしてもひび割れ始めたのだ。
「うそ!? なんで!? やっぱり違う世界のエネルギーじゃダメだっての!? 」
だがその変化は慌てる遥を無視して迅速に進行し、赤い胸郭が粉々にはがれ落ちていった。
「…………は?」
遥は目を見張った。
そのはがれ落ちた組織の下には、白銀に輝く新たな胸郭が形成されていたのだ。
それだけではない。肩の、下腕部の甲殻も変形し、輝ける赤と白銀の新たな戦士の姿を現した。
『……は、る か……?』
「翔一!」
そして翔一の声が遥の名を呼び、新たな姿となったアギトは怪訝に辺りを見回した。
『……おれ、は……?』
「翔一! 翔一!」
『うっお!? 』
突如胸に飛び込んできた遥を受け止める。
その受け止めた己の腕を見るなり翔一が絶叫した。
『うおお!? なんじゃあこりゃあ!? 』
「翔一!良かった! 痛いとこない?大丈夫?」
己の身体をためつすがめつ見回す翔一には、とりあえず見た目以外の問題はないようだった。
「大丈夫? あんた、どの辺まで覚えてる?」
遥が目の前で三本立てた指を振るのに合わせて指を三本立てて見せながら、翔一は新たなマスクを傾げた。
『んー? そーだなー。 ……ちゅーしてくれたら思い出せそうな気がするんだが』
「もっかいパワーアップしたい?」
『嘘ですごめんなさい』
にっこりと笑顔で拳を振り上げる遥にアギトは慌てて両手をかざして後退った。
「ってかなによ!? 最初っから意識あったんじゃない!? 」
『い、いや、なんか悪夢の次にいい夢見たなーとか思ってたんだが、まさか現実だったとは!? 』
結局ぽかぽか殴られるままのアギト。
『あ、いや、待て!そういや あいつは?どこ行った?』
「え?」
言われて辺りを見回すと、遠くを這いずって遠ざかるG4の後ろ姿が見えた。
取り憑いているくせに這いずっているのは、G4が動作不良でも起こしたのだろうか。
『……はっ、まあいいや。あとで防衛省を問いつめちゃる。』
「!」
『!? 』
その瞬間、同時にその気配を察知したアギトと遥はそれぞれ同じ方角を振り向いた。
『あいつは!? 』
「あれ……!? 」
林の奥からこちらに歩んでくる影。
そいつは一体きりのようだったが、なぜかアギトと遥は同じものを見ていた。
やがて現れたのは、先ほどの風のエルロード。
だが、先ほどと違い体中に色とりどりのステンドグラスのような体組織を顕して変形していた。
『なんだありゃ。派手になりやがって。』
「……うそ……なんで……」
アギトは首を傾げていたが、遥はこの現象を知っている。
かつて自身の世界にディレイドが介入した時に発現したモンスター、デュアルビーイング。
ディレイドの弁に寄れば、二種の異なる存在を掛け合わせた新たな存在で、両者の長所で両者の弱点をスポイルしてしまう厄介な能力を持っている。
だが、こいつはアンノウンとファンガイアの混合生物。ファンガイアは魔皇力と銀の攻撃しか受け付けないが、アンノウンへの攻撃にはなんの制限もない。
そのことを脳裏で検討した遥はアギトの前に立った。
「翔一。あいつにただの攻撃は通じない。アンノウンとファンガイアが混ざっちゃってんのよ。 わたしが仕掛けるから、援護して。」
『お、おお。』
「スパスパイダー!」
『おう!』
飛び上がってきたスパスパイダーを手に噛みつかせ、アクティブフォースを受けてベルトにスパスパイダーを配置し、鎧の召還を受けてウィブへと変身する。
『行くわよ!』
「ファンガイアがいた痕跡があるのに、さほど侵攻は進んでいないようだな。」
『!? 』
今まさに駆け出そうとしたその瞬間に横から聞こえた声に、ウィブは身をすくめて立ち止まった。
見れば、デュアルビーイングとは別方面の木立の間に、ファンガイアの集団が出現していた。
先頭に立って声を発した者は人間の姿に化身していたが、そいつもファンガイアであることは気配で分かる。
それも、遥が見知った姿だった。
『……び、ビショップ!? 』
ディケイドが介入した前後から姿が見えなくなったファンガイア族のナンバー3が、そこにいた。


『……なぜ、こんなところに……?』
「それはこちらの台詞だな「葬儀屋」。貴様はなぜここにいる」
当然のように見下ろした発言をするビショップ。
クイーン直属の部下といえど、遥はチェックメイト・フォーには遠く及ばない格下なのだ。
『わ、わたしは、キングの勅命を受け、異世界に侵入した裏切り者の討伐に当たっております』
「裏切り者、か。あの小さきキングはまだそのような世迷い言を言っておられるのか……」
憂うようにビショップが言うが、その声音には多分に嘲りが込められている。
『お言葉ですがビショップ。キングの御下命をないがしろにするのは、いかなビショップといえど』
「黙れ。」
痩身の男の目が光ったと見るや、いきなりウィブが吹き飛ばされ、身体で木々を二本打ち砕いて激突し落下した。
『ぉおいっ!? 遥っ!? 』
仰天してアギトが叫ぶ。ウィブは激痛に身を捩らせ悶絶していた。
『おどれナニさらすんじゃわりゃああああああ!』
激情のままにアギト・シャイニングフォームが男へと駆け出した。
が、痩身の男の瞳がアギトを捉える方が速い。
迫るアギトを睨み据えその目が輝くが、アギトは僅かに風圧を感じたのみでその足は止まらない。
「何?」
異世界の戦士の持つ異能に勘付いた配下のファンガイアが二体、ビショップの前に素早く立ちふさがった。
『どりゃああああああ!』
だが、アギト・シャイニングフォームの拳の一薙ぎで二体のファンガイアは呆気なく殴り飛ばされた。
「……!? 」
冷静にその隙に距離を取ったビショップは、身を翻すとアゲハ蝶の生態相を持つスワローテイルファンガイアの本性を顕し、アギトを迎え討った。
凄まじい速度で殴り合う二体。その力は拮抗しているようだった。
『てんめええええ!おとなしくそのツラ差し出せえええええ!』
『……これが、異世界の、戦士の力、か……!』
ウィブを吹き飛ばした魔皇力の異能が通じなかったことを含め、ビショップとしても相当警戒せざるを得ない。
『ならば、やはりアレの出番か』
『何!? 』
交戦中に突如横から蹴り飛ばされ、アギトは為す術もなく吹き飛んでゆく。
そこに飛び込んできたのは、派手に変色したアンノウン・デュアルビーイング。
『お前たちは行け。 女。次の世界へ案内しろ』
ビショップの指示に、配下のファンガイア数体が林の奥へ駆けてゆき、ビショップが足下にいた人間の女を掴み上げると共々姿を消してしまった。
『ああっ!? てめえこらあ!』
怒声をあげるも意味はなく、アギトは襲いかかってきたデュアルビーイングに向き直らざるを得なくなった。
鋭い鉤爪が、弓の剣が振り回され、アギトはそれらを的確に打ち払い捌いてゆく。
そしてさらに、林の向こうから大量のアンノウンが続々と現れ出した。
『んななんだあ!? くそったれ!透!まだかよ!』
『芦河さん!お待たせしました! ……って、なんか色変わってる!? 』
「あーしーかーわーさー」
『バカヤロ俺だ俺!』
そこに、今度は数人のギルス部隊と、なぜか入院しているはずの瞳子までもがだぶだぶの制服姿で現れた。
『すみません芦河さん!防衛省の連中が道塞いで邪魔しやがって』
『おっし!いいから、こいつは俺に任せてお前等はアンノウンを! それからお嬢ちゃんは帰れ!』
「黙りやがれですー!」
『ンだとう!? 』
一気に乱戦の様相を呈する林の中。
そしてそこに今日一番の異常、アンノウンまでもが狼狽する程の巨大な目映い光が突如林の中に出現し、その中からイエローとシルバーで構成された装甲を纏う戦士、ディレイドが現れた。
『翔一。遥。待たせたな。』
『透! ……ちょいと形変わったか!? 』
「え?あれ、ショウちゃん!? おーい!」
『うお!? リョウちゃんまで!? 』
ディレイドの背後から、かつて一度別れたはずの糸矢までが顔を出した。
『おっしゃあ!リョウちゃん、G3ーXは使えるな?全員でたたみかけろおっ!』


『ほう。デュアルビーイングか。』
『おおい!? のんきに分析してねえでなんとかしろ! なんか混ぜモンで厄介なんだろこれ!? 』
アギトと交戦する異形を見て呟いたディレイドは、片手に掴んでいた少年・テオスの腕を放すと、そちらへと歩いていった。
『ふむ。アギトのもつエネルギーではファンガイア側の特性が邪魔をするだろう。 翔一。タイミングを見て離脱しろ。』
『ああ!なんでもいいから早くなんとかしてくれえっ!? 』
翔一の焦りも意に介さず、ディレイドは己の手順を実行した。
取り出したカレイドブレイドの刀身の溝に描かれたライダーズクレストの内、キバの紋章に指先で触れる。 すると紋章が輝き刀身にはめ込まれたディレイフォンのディスプレイにキバのマークが現れた。
そして様々な形状のバックルを並べたベルトを掴むと、それを振り払うようにして回転させた。
連動して胸郭表面に散りばめられた多数のライダーカードの切れ端が複雑に入り乱れて万華鏡のように回転し、左右に詰まった形状のキバットバットがベルトの正面で停止したのと同時に胸郭の中央に唯一キバ・エンペラーフォームが描かれたライドカードの欠片がそろい、完全な絵柄となった。
《カレイドカメンライドゥ・エンペラー。》
姿かたちこそ大きな変化はないが、これによりディレイド・カレイドフォームは仮面ライダー キバ・エンペラーフォームの特性を得た。
認証の声と同時に駆け出すディレイド・カレイドフォーム。
『翔一。蹴りだ。合わせろ』
『ええ!? 』
突如戦闘に割り込んだディレイドの要求に泡を食うも、ディレイドに合わせて同時にデュアルビーイングを蹴り飛ばす。
『あとは任せろ。』
『うわ!? 透にゃ珍しい頼もしい言葉!? 』
訳の分からないアギトの台詞を無視し、たたらを踏んで後退るデュアルビーイングを追うディレイドは、まずカレイドブレイドの刀身の溝の先端に触れると、クウガのマークからディケイドのマークまで一気に指先でなぞりきった。ディレイフォンのディスプレイにも同期してスロットのように次々とマークが表示されてゆく。
《ファイナルアタックライドゥ・カレイド!》
認証後、ベルトを掴んで振り払い、十のバックルを勢い良く回転させた。
それに同期して目まぐるしく模様を回転・変化させる胸郭のカードの欠片。
それらは勢いを緩めることなく回転し続ける。
これがディレイド・カレイドフォームの真骨頂。正面を向くバックルが瞬く間に回転して入れ替わり、胸郭のカードの欠片も入り乱れ、この間に限りディレイドは九旗の仮面ライダーの最強フォームの特性を同時に発揮することができる。
否。九旗の仮面ライダーの特性を全て内包し融合させて発現できるのだ。
駆けるディレイド・カレイドフォームはデュアルビーイングの手前で跳躍した。
衝撃から立ち直ったデュアルビーイングはだが、既にかわす暇もない。
このデュアルビーイングは、アンノウンとファンガイアの特性を同時に持っている。
対してファイナルアタックライドを発動したディレイド・カレイドフォームは今、全ての仮面ライダーの特性を融合させている。
だからその蹴り足はデュアルビーイングを呆気なく蹴り砕き、爆砕させ消滅させた。
このディレイドカレイドキックは、あまねく融合モンスターを打ち滅ぼせる攻撃なのだ。


「ほらこれ。あんた、こんな顔してたのよ?」
「……鏡ねえから、進化した俺の顔が自分じゃ分かんなかったんだよな」
ディレイド・カレイドフォームの胸郭のカードの欠片を指さして、しげしげと覗き込みながら遥と翔一が言った。
「ってぇか透。この格好はなんの冗談だ?なんかの自慢か?」
「あはっ。ショウちゃんボクと同じこと言ってる~」
『問題ない。』
翔一の言い種に糸矢が朗らかに笑った。

あれからアンノウンは一掃され、解放した少年・テオスは悔し涙を浮かべて走り去ってしまった。戦闘中のことだったので誰も手が出せなかったが、その正体を透が翔一に告げたのがその後のことだったので、どうしようもなかった。
「まあ、売られた喧嘩だ。その内会うこともあるだろうよ。」
「気楽なもんね。本当に大丈夫なの?」
「あ~ダメかも。でもちゅーしてもらえたら世界丸ごと救えるかもしんない。」
「あーしーかーわーさーん」
翔一と遥の間に、にゅう、と瞳子が下から生えてきた。
そして翔一に土を蹴りかけながら遥を抱きしめて距離を離す。
「お前な……」
「ぺっ。ぺっ。」
「あはは。なんかだんだんガラ悪くなってくるわねこの娘。」
遥は乾いた笑いで瞳子の頭を撫でた。
「ねえショウちゃん。これ。」
傍らに寄ってきた糸矢が、翔一にG3ーXのベルトを差し出した。
「お手伝いが終わったから返すね。それと、ありがとう。ショウちゃんみたいな人がいてくれて、本当に良かった。」
「おう。そりゃ良かった。 まあ生きてんのが神のボーナスだからよ。挫けねえでがんばれよ。」
「ウン!」
嬉しそうに満面の笑みで糸矢はうなずいた。
『さて。そろそろ行かねばならない。』
「あらま。慌ただしいこと。」
遥が苦笑しながら呟いた。
「まあ、キングに報告しとかないといけないことが増えたしね。」
泣きそうな顔の瞳子が、渋々と、名残を惜しみまくった挙句にようやく遥の袖を握りしめた手を離した。
「世話になったわね。ありがとう。」
「ふええええええええ」
とうとう泣き出した瞳子の頭を優しくなでる。
考えてみれば、ディレイドの手伝いとはいえ、瞳子は人間としては希有な存在だ。
苦手なタイプではあったが、遥も大いに救われたのだ。
『では、遥、糸矢。側に寄れ。』
言ってカレイドブレイドを一振りしたディレイドの身体から、ドット柄のノイズが溢れ出し、瞬く間に全世界を覆う程に拡張してゆく。
『この世界に入り込んだファンガイアは、新たに侵入したものも含めて一体の取りこぼしもないから安心しろ。』
「おう。」
『それから翔一。G3ーXの貸与は助かったぞ。』
それを聞いた途端、翔一と遥がそろって吐きそうな顔をした。
『どうした。具合が悪いなら、当面脅威はないからゆっくり休め。』
「おめえが、らしくねえこと言うからだバカタレ! 早く行っちまえ!」
『そうか。 ではな、瞳子。』
泣き顔で、あくまでも遥に手を振る瞳子に告げ、ディレイドと遥と糸矢の姿は掻き消えていった。
「遥! おめえはイイ女だったぜー!」
「……。」
姿が完全に消える寸前に叫んだ言葉に、遥が珍しく投げキッスなど披露してくれたおかげで翔一の鼻の下は伸びっぱなしになったが。
その遥の行動が、翔一の背後に八代が立っていたことを見越した上での最後の置き土産であったことに翔一が気付くのは、この一瞬後のことである。

これを以て、「アギトの世界」に紛れ込んだ「第二の異常」は完全に終結した。
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